河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

「生きた弱い紐帯(つながり)」のつくりかた〜「ゆるさ」をデザインしてSerendipityを生み出そう

 

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「ただしい-ゆるい」軸と「コミットメント大-小」軸が生きた弱いつながりづくりのキーになります


以前、記事にも書いた弱い紐帯(ちゅうたい=以下つながり)」という言葉が、更に脚光を浴びています。特に「オープンイノベーション」の文脈で取り上げられる機会が増えているように見えます。

先のブログ記事で書いた通り、実体験としては「弱いつながり」が、新しいことを生み出す源泉になるのは事実だと思ってます。しかし最近は、さまざまな場づくりやコミュニティ開発において、この「弱いつながり」という言葉がある種のマジックワードとして、便利に使われすぎている面もある気がしています。(「オープンイノベーション」がマジックワードになっているように)

たとえば「弱いつながり」を生み出す目的とうたっているのに、その集まりの来場者層をみると同質性が高かったり。あるいは、参加者に何かしらのコミットメントが発生していたり。同質性高い場所や、コミットメントが大きい場所も、それはそれで必要とは思うのですが、こと「弱いつながり」づくりをデザインするという観点でいうと、もしかしたらアプローチとして、正解ではないかもしれません。そこで生まれた「つながり」が本当に生きたものになるのかという観点も重要です。

以下、自身が「生きた弱いつながりづくりを目的とした場づくり」において、大事にしている3つのポイントを記します。個人の経験則ではありますが、実際に場づくりやコミュニティづくりをするにあたって得た経験という裏付けがあるものです。生きた弱いつながりづくりを目指す皆様にとって、何かの参考になれば幸いです。


1:「ゆるさ軸」と「コミットメント軸」の2軸で場をデザインする

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私が場をつくりにあたって常に意識する2軸が、上の図のような「ゆるさ-ただしさ」軸「コミットメント大-コミットメント小」軸です。ある企画が立ち上がったときに、求められるのは、この2軸においてどこにプロットされる場なのかについて、まず考えます。

たとえば、NHKさんと開催しているNHKディレクソン」というアイデアソン(プロモソン)は以下のようにプロットされます。

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見方を解説するとこういうことです。

NHKディレクソンは「参加者みんながTVディレクター」という触れ込みのアイデアソン(プロモソン)です。参加者がおもいおもいの動機で参加し、暖かい空気感の中で、テレビ番組の企画を共同作業でつくっていきます。基本的には「ゆるくて心地いい」場をつくることに主眼をおいており「ゆるさ-ただしさ」軸においては「ゆるさ」寄りのデザインをしています。

一方で、NHKディレクソンは「この場から番組企画を生み出す」ことへのNHKさんの期待も高まっており、ゆるくて心地いい場づくりと並行して「アウトプットの精度を上げる」ことも意識する必要があります。クライアントのアウトプットへの期待に答えられるよう、進行も工夫しています。これが「コミットメント大-コミットメント小」軸が大の方によっている理由です。

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「全員がテレビディレクター!」NHKのスタジオ内で開催されている「ディレクソン」

このプロットは、同じようなカテゴリーのイベントだからといって、同じになるとは限りません。ディレクソンと同じフォーマットを採用しているアイデアソン(プロモソン)のいいちこらぼ」でプロットすると、こんな具合です。

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いいちこらぼ」は、いいちこのファンを増やすこと、いいちこブランドに親しみを持ってもらうことに主眼をおいており、参加者を追い込んでアウトプットの精度を高めるというよりは、参加者ひとりひとりに、それぞれのペースで楽しんでもらうことを優先して設計しています。「ゆるさ-ただしさ」軸は、ディレクソンと同じく、右の「ゆるさ」によっているのですが、縦軸の「コミットメント大-コミットメント小」軸は、下の「コミットメント小」の方によっています。

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サンフランシスコで開催された「いいちこらぼ」。現地日本人と米国ローカルの方との交流の場としても機能している。


実際、どちらのプロモソンでも、良質なアイデアは出ていますし、そこの優劣はありません(フィットする人を集めて、心地いい議論ができる空気をつくれば、いいアイデアは大抵でてきます)。ただし、コミットメントが大きくなると、クライアントの意向により近いアウトプットが出てくるよう、精度を上げるためのチューニングが必要で、そのチューニングの度合いが、この2つのプロモソンでは違いとして出てきます。

プロモソンではなく、トークイベントの例を見てみましょう。私がソーシャルチケッティングのPeatixさんと一緒に開催しているシリーズイベント「コミュコレ!-Community Collection SHIBUYA」だとどうなるかというと、以下の通りにプロットされます。

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「コミュコレ!」は、コミュニティのキーパーソンを登壇者として25人集めたトークショー&ミートアップ。「コミュニティ界のフジロック」を自称しています。

地域やコミュニティについて真面目に考える部分もあり、ちょっとだけ「ただしい」ほうにかぶってますが、基本的には「コミュコレ!」は、ゆるさを大事にした集まりなので、右軸によっています。また、会を通じて、なんかしらのアウトプットを出そうという考えはまったくないので、コミットメント小によっているのが特徴です。

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渋谷区副区長、渋谷区観光協会代表理事などが自然体で参加した「コミュコレ!」


このように、さまざまな場のデザインの仕方や企画によって、似たようなイベント企画でも、それぞれ違った特性を持っています。まずは企画をたてたときに、自身の狙いとしてその場やコミュニティが、どこにプロットされるのかを考えてみる必要があると個人的には考えてます。そして「ここにプロットされるのが理想だから、こういう層のひとを呼び、こういうコンテンツを用意する」と逆算して企画をつめていくのが効果的なのです。

すべてのイベントやコミュニティなどが綺麗に分類できるものでもないですが、傾向としては、4象限に分けたときに、下記のようにプロットできる傾向があります。そもそもの目的や、参加者の求めているものを考慮しながら、どこにプロットして企画を立てるかは「生きた弱いつながり」づくりを志向するオーガナイザーやファシリテーターとして、とても重要なことだと考えてます。

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2:「ゆるさ」でOpen minded(オープンマインド)な空気を生み出す

ところで、上記の河原プロデュースの企画のプロットを見たときに、ある傾向に気づいたでしょうか。気づいて欲しいのは、それぞれの企画が「ゆるさ-ただしさ」軸において、右寄り、つまり「ゆるさ」のほうに寄っている点です。

なぜ「ゆるい場」をつくる必要があるのか。それは、下記の方程式が、ゆるい空気を適切にデザインした場において働くからです。

Open minded(オープンマインド)x Diversity (多様性)= Serendipity

Serendipityとは、その後の人生を動かすような偶発的な出会いや発見のことを指す英単語です。MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんがよく使ってますね。

「弱いつながり」が、新しい価値を個人や組織にもたらす理由は、自身の外のクラスタにいる、情報や人脈のハブとなる人間との接点が生まれることにより、この「Serendipity」が起きやすい環境が整うためです。

しかし、ただ人を集めれば、Serendipityが発生する出会いを作れるというものではありません。「弱いつながり」の中からそれが生まれやすい場を作るには2つの因子が必要になります。

それが「オープンマインドになれる環境」「参加者の多様性」です。

「ズレた感性や価値観やバックグラウンドを持つ人たち」と、自身のやりたいことや想いや動機の共通項を見出すことにより、その後の人生を左右するような偶発的な発見や出会い=Serendipityは生まれます。

この共通項を見出すのに必要なのが「オープンマインド」、すなわち「自分の価値観とは異なるものを受け入れ、自分との重なりを見出せる感性」なのです。

これが整った状況でないと、いくら潜在的に可能性を秘めた出会いがあったとしても、「自分の価値観にあわないから」という理由などで、出会いを受け入れずにスルーしてしまう結果になってしまいます。

では、ある場において「オープンマインド」を整えるにはどうしたらいいのか。その鍵になるのが、場のもつ「ゆるさ」だと個人的には考えています。

「ゆるさ」とは、その場の空気の心地よさを参加者同士が共有する姿勢によって生まれます。「この場を楽しもう!」という、参加者の暗黙の一体感がその源泉となります。

一方「ただしさ」起点の場所だと、このような一体感は生まれづらいです。「自分はこう振る舞うべき」「このような立場で他人と接するべき」「価値観を崩してはならない」と、「べき論」が先行し、決められた枠内で動くことを自身に課してしまい、オープンな気持ちになりづらいからです。

「ゆるさ」を重視する場づくりにおけるファシリテーターの仕事は、その暗黙の一体感を、企画や進行で、誰にも押し付けずに醸成することの一点につきます。

ちなみに、よく「ゆるいイベントをつくればいい」と話すと、運営や企画立てもゆるくていいのだ、と誤解されることもあるのですが、それは間違いです。大事なのは「参加者のみなさんがオープンになれるようなゆるい空気を、ファシリテーターがただしい手順で作り上げること」です。雑な運営は、参加者がその場に没入できない大きな原因になってしまいます。参加者が気づかないくらいのさりげなさで、場の空気の一体感を生み出すのが、場づくりをする人間のもっとも大事な仕事だと自身には戒めています。


3:「なんか面白そう」起点で集客し「Diversity(多様性)」を担保する

Open minded(オープンマインド)x Diversity (多様性)= Serendipity

この方程式にのっとるなら、参加者がいくらオープンマインドでも、もう1つの要素がなければ「弱いつながり」からのSerendipityは生まれません。その要素が「Diversity(多様性)」です。

先にも述べた通り「ズレた感性や価値観やバックグラウンドを持つ人たち」を上手に集めることが「生きた弱いつながり」づくりのベースとなります。

そんな集客ができれば苦労しないんだ、簡単に言うな!と思う方もいるかもしれません。しかし、多様な人たちの集客も企画の立て方ひとつ、切り口ひとつで、成立させることができます。

例えば、私が一般社団法人コトの共創ラボと定期開催している「めたもんショー」というイベントがあります。

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「めたもんショー」は、大企業やスタートアップの異能人材をカードゲームにしてしまおうという趣向でスタートしたイベントシリーズです。異能な人材、世の中をびっくりさせるようなアウトプットを生み出している(生み出そうとしている)面白い人をピックアップして、トークを聞き、そのトークの内容を反映して、カードを創るという企画になっています。

一言で言うと、我ながら「とても説明がしづらい」企画です。しかしシリーズは既に5回を終了し、毎回、人があふれる人気イベントになっています。

興味深いのは、客層が毎回少しずつ入れ替わり、大企業から、スタートアップから、さまざまなバックグランドの人たちが集まってくる点です。そして、壇上にのぼる異能人材=めたもん も面白ければ、くるお客さんも、多様で個性的で、軒並み面白いのが特徴です。イベントが終わった後の懇親会も毎回盛り上がります。

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企業の役員から、スーパーエンジニアから、スーパー公務員まで。幅広い「異能人材」がカードになっていく「めたもんショー」


なぜ、多様な面白い人たちが、この企画で集められるのでしょうか。その鍵になっているのは、企画の中身を覗いたときに感じる「なんか面白そう」という感覚だと思うのです。

場の多様性をつくりだすために大事なのは「日々面白いこと探しをしている層」をつかまえることです。

この「なんか面白そう」という感覚は、合理的に説明するのは難しいものです。特に「めたもんショー」のようなイベントは、何度イベントの説明文を読んでも理解するのが難しく、主催者すら他人に上手に説明するのが難しい。しかし、カードゲームのデザインや説明文からは、好奇心が強い人がみると「よくわからないけどひっかかる・気になる」と思うような空気が流れています。その空気が「日々面白いこと探しをしている層」のアンテナに、ひっかかるのではないでしょうか。合理的な理由なんてありませんが、むしろ、だからこそ、気になってしょうがなくなるのかもしれません。

この「日々面白いこと探しをしている層」は、世の事象に対するコミットメントは自分で決める、と思い込んでいるので、コミットメントの大きい場を避ける傾向があります。そして「面白さこそが自分にとってのただしさ」と考えているので、世間一般の「ただしさ」軸には反応を示しません。よって、この層が集まる場は、4象限において、以下のポイントにしぼられることになります。

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結果「コミットメントが小さくてゆるい」場所には、さまざまなコミュニティから、さまざまなバックグランドを持った人たちが「なんか面白そうだな」と言いながら集まるのです。

「生きた弱いつながり」において重要な「Diversity(多様性)」を場に担保するには「ゆるさ」を持ち続けることが不可欠です。また、コミットメントや、ある種の価値観を押し付けず、それぞれがそれぞれの楽しみ方ができる場の設計が、あわせて重要なのです。

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企業などが新しい発想を生み出すには、イベントやコミュニティが大事だ、という論調が強まって久しいですが、いかんせん、そのような場づくりにおいて「ゆるさ」が軽視されている傾向がある気もしています。「ちゃんと、正しくやらなくてはならない」という、主催する側のプレッシャーのようなものが作用しているのかもしれません。

しかし実は「ゆるさ」こそが、偶発的でインパクトのある出会いの源泉なのです。「ただしさ」を強めれば強めるほど、Serendipityは起きづらくなりますし、結果、場やコミュニティは硬直化していきます。

「生きた弱いつながり」をデザインするにあたり大事なのは「ここにくれば何か新しいものが見つかる」という期待感を持って、より多くの参加者が集まれるような場をつくることです。

「ゆるさ」はそのための最大の武器です。「ゆるさ」の強弱をコントロールできることができれば、元の企画の狙いにはまった場づくりがうまくいく可能性はおのずと上がります。

何よりも、自身が、オープンマインドになり、多様性を受け入れる素養を身につけることが、場づくり、コミュニティづくりをする人間にとって重要です。その素養さえあれば、オーガナイザー自分自身にとっても、いいSerendipityに恵まれるでしょうし、その出会いのひとつひとつが、次の場づくり、コミュニティづくりに還元されていきます。結果、どんどん、自身が思い描く理想に近い状況に、場やコミュニティが、近づいていくと思うのです。

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(追伸)なお、2017年11月1日付で職場である「東京カルチャーカルチャー」が、ニフティ株式会社から、東急グループのイッツ・コミュニケーションズ株式会社(以下イッツコム)に事業譲渡され、ともない、私もイッツコムに転籍となりました。特に何も変わらない、というか、ますます活動を加速させますので、引き続きご支援よろしくお願いします。