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河原あずの「イベログ」

イベント屋・河原あず(ニフティ・東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

アイデアソン進化論。〜つながりをつくり育てる「プロモソン」のススメ。

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座禅ではじまる「茶ッカソン」。そこに、新しいアイデアソン進化形の、ヒントがありました。


ちょうど昨日(2017/2/4)から高知県高知市で「アイデアソンサミット2017」というイベントが開催されています。ぼくも誘われたものの所用で行けなかったのですが、参加者の方から伝わってくる議論の内容はとても興味深いものでした。

その中で、ハッカソン・アイデアソンを多数開催されているフィラメントの角勝さんから、こんな問題提起があったと聞きました。

「アイデアソンはアイデアを出すより、つながりができることが価値です。アイデアソンの価値の再定義をする時期にきているのではないでしょうか。アイデアソンの名前も変えるべきかもしれない。」


これを聞いたときに、さすが角さん、と、思わず膝をうちました。ぼくもまったく同じことを考えていました。というか、最初にアイデアソンを企業さんとやりだした頃から「アイデアソンの再定義」に取り組んでいたことに、去年の11月に気づいたのです。

自分の仕切るアイデアソンが、実はアイデアソンの枠をはみだしていることに気づいたぼくは、そのフォーマットに、まったく新しい名前をつけました。

その名も「プロモソン(Promo-thon)」。Promotion + Ideathon で、プロモソン。アイデアソンの進化形と、個人的には位置付けています。

プロモソンとは何か。一言で言うと「企業とお客さん、ファン同士の関係づくり=ファンコミュニティの醸成」を第一目的にすえた、企業プロダクトを新しい世界観でブランディングする、アイデアソン型の新感覚エンターテイメントです。

今までぼくは、2種類の「プロモソン」を開発してきました。ひとつは伊藤園さんとの取り組みである「茶ッカソン」。もうひとつが、いいちこでおなじみの三和酒類さんとの取り組み「いいちこらぼ」です。

この2つのアイデアソンをつくる上で、ぼくが最重要視したのは「新しいイノベーティブなアイデアの創出」では実はありませんでした。そうではなくて来場される40〜70名のお客さんのひとりひとりが主人公になり、ぼくらがつくった世界観に没入できる「参加型エンターテイメント」であることを目指して、作り上げたのです。

結果、何が生まれたか。それは「継続性のある主催企業とファンの関係づくり」です。いいちこらぼは、2016年の6月に初回開催され、2017年春には第3回を開催の予定です。茶ッカソンに至っては、2014年4月以降、サンフランシスコで8回、東京でも10回開催されている他、ニューヨーク、シアトル、京都などでも開催されてます。

このように、企業が消費者の方とつながることで何が生まれるか。それは以前ブログで紹介した「弱い紐帯(ちゅうたい)」すなわち「ファンとしての帰属意識に裏打ちされた企業の周縁のゆるいつながり」です。審査員やスタッフも含む参加者の中には、業界のキーマンや、独自のスキルやネットワークを持ったかた、関連ビジネスを実施している方など、さまざまな方がいます。彼ら、彼女らとのつながりを定期的に温めることにより、ふとしたきっかけで新しい情報がもたらされたり、新規性の高いアイデアが舞い込んだりします。

その際、大事なのは「この会社が、このプロダクトが、何よりこの会社にいるひとたちが好きだ!!」と、参加者のみなさまに強く思っていただくことです。

そんな場をつくると、結果的に、出てくるアウトプットの質も上がるから不思議なものです。人間の発想の源は「環境」と「気持ち」です。非日常感は脳の動きも活性化させますし「楽しい」という気持ちは、グループワークへの前向きな取り組みにもつながってゆきます。会社やプロダクトへのエンゲージメントを高めた状態で、エンターテイメントとして成立している場を作れば、当然、でてくるアイデアの質も向上してゆくのです。

そのような場をつくりあげるために、ぼくがプロデュースするプロモソン「茶ッカソン」や「いいちこらぼ」では、以下の3つのポイントを意識しながら企画だてをしています。みなさんもぜひ、プロモソンを実践してみてください。より精度の高い、企業に新しい価値をもたらすコミュニティづくりが、たったこれだけのポイントを意識して、アイデアソンをアップデートすることで、可能になるのです。


1:アイデアソンにありがちなKPIをいったん忘れる

プロモソンにおいてKPIにするべきなのは、企業がアイデアソンやハッカソンのKPIとしがちな「たくさんの人数を呼ぶこと」でも「たった1日や2日のグループワークで革新的な新規事業のアイデアをひねりだして企業内で実践した回数」でもありません。むしろこれらのKPIのことを「いったん忘れて」会のゴールをしっかり再設定することが大事です。

「プロモソン」では「その企業プロダクトを、参加してくれた皆さんの中の"物語"に組み込むこと」をゴール(目的)とします。そのひとたちに非日常体験を与え、日常に戻ったときにも、その企業のことやプロダクトのことを無意識に考える状態をつくりあげます。また、帰ってくるリピーターを受け入れ、また、新しくやってくる仲間を迎えるためにも、定期的に開催することが推奨されます。KPIにすべきは、開催頻度であり、その場の参加者すべて(お客さん、審査員、ゲスト、クライアント、スタッフ)の満足度です。

プロモソンとは、短期的な新規事業開発の手法ではなく、新しいプロモーションの手段であり、マーケティングブランディングの新しい形です。企業からの押し付けでプロダクトをつくるのではなく、また、企業から「新しいビジネスをつくりなさい」というお題を押し付けられることもなく「一緒に場を創る」という作業をくぐりぬけることにより「いつのまにかその企業やプロダクトのファンになる」状態をつくりあげ、「一緒にプロダクトや企業を育てる仲間」を増やします。その仲間のひとりひとりが、今度はインフルエンサーとなって、新しい仲間を連れてくる状態をつくるのです。

だからぼくはクライアント企業に「アイデアソンの運営はぼくらにまかせていいので、とにかく来場されたみなさんとコミュニケーションとって仲良くなってください!」と言います。その外とのつながりが、中長期的にみたときに、企業に大きな利益をもたらしてくれるのです。


2:「世界観」をつくり、参加者を物語の主人公にする。

ぼくが、2014年に伊藤園さんと「茶ッカソン」をシリコンバレーではじめた際に、もっとも参考にしたイベントがあります。それは、他の人たちがやっているハッカソンやアイデアソンではありませんでした。なにかというと…

「リアル脱出ゲーム」です。

2008年の東京初上陸の際にはじめて体験したリアル脱出ゲーム。SCRAPという会社が主催し、今や、世界中で人気の参加型エンターテイメントです。ぼくは、何度も参加して夢中になった「リアル脱出ゲーム」の中に、新しいアイデアソン構築のヒントを見出しました。

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「プロモソン」は、リアル脱出ゲームをヒントに生まれました


リアル脱出ゲームは集まったお客さんを「ある密室に閉じ込められた」という設定の中に追い込み、謎を制限時間内に解かせ、すべての謎が解けたら「脱出成功」となります。


リアル脱出ゲームの面白さのキモは以下の手順を踏んで、お客さんをゲームの世界に没入させるところにあります。

「世界観の構築」(ロケーションや商材を選定し、それにふさわしい設定をつくる)
→「物語の世界へのスイッチ」(「あなたたちは閉じ込められました」という一言。ミッションを与えて、スタート)
→「制限時間ある中での共同作業」(制限時間で執拗なストレスが与えられるグループでの謎解き)
→「脱出成功の歓喜と、脱出失敗の絶望」(最後の最後に成功者を明らかにし、緊張からの歓喜を呼び込み、脱出失敗した人たちとのコントラストをつくる)



そして、ぼくは伊藤園さんとアイデアソンをやろう、といったときに、このリアル脱出ゲームの演出要素を、次のようにアイデアソンに置き換えたのです。

「世界観の構築」(「現代版茶会」という設定に即した千利休などお茶の歴史と哲学のインプット。お茶とともに有名スタートアップのオフィスでワークすることによる「クリエイティビティ・Creativi-TEA」の刺激)
→「物語の世界へのスイッチ」(座禅や抹茶、煎茶体験。ロケーションや商材にあわせたミッション(お題)の発表)
→「制限時間ある中での共同作業」(制限時間で執拗なストレスが与えられるグループワーク)
→「プレゼン後の受賞の歓喜」(最後の最後に優秀者を明らかにし、緊張からの歓喜を呼び込み、参加者全体の中でコントラストをつくる)


特にプロモソンにはあって他のアイデアソンやハッカソンにはあまりない大事な要素は、導入部分にある「世界観の構築」と「物語の世界へのスイッチ」です。茶ッカソンでは数を重ねる毎に、主催の伊藤園・角野賢一さんと一緒に、試行錯誤して、これをどう作り上げて、参加者のみなさんを没入させるかという命題に取り組んできました。その結果、現在は毎回開催している「座禅」をグループワークの前に取り入れたり、畳をあらゆる会場に敷きつめて「非日常空間」を演出する現在の方法に落ち着きました。たとえば、渋谷ヒカリエ六本木ヒルズの49階に畳を敷き詰めたりします。これは効果てきめんで、来た瞬間に参加者の方の気持ちはあがり、コンテンツへの没入感が増します。

これを行うことで、参加者の方々は、メタな世界の主人公として、演じ振る舞うことが可能になります。茶ッカソンにおいては「現代版茶会の参加者」であり、いいちこらぼにおいては「知的バー空間にやってきたお客さん」という設定の中、参加者は振る舞うのです。そして、初対面の方とチームを組んで「お題に応じたプレゼンをつくる」というミッションをこなします。

プレゼンの発表の後は、ドラムロール、表彰BGMなども含め、きちんと演出された表彰を行うことで、歓喜の輪をつくります。賞をとったひとは、その喜びがかけがえない思い出となりますし、選を漏れたひとたちは、次こそはあの歓喜の輪をつくりたい!という思いで、再び参加してくれます。

衣装や小道具も大事です。テーマにあわせて小道具を用意したり、ワークをオリジナルでつくったりします。茶ッカソンでは毎回ぼくは、作務衣をはおって登場します。「知的バー空間」というコンセプトのいいちこらぼでは、スーツで登場しますし、バーカウンターでは常にバーテンダーにシェイカーをふってもらい、アイデアソンを促進するカクテルをグループにサーブし続けます。ひとつひとつの演出が、参加者のプロモソンへの没入感を左右するのです。

また、もちろん、ワーク本編のファシリテーションのクオリティが問われることは、言うまでもありません。失敗作のRPGのように、設定がすぐれていても中身がだいなしなら、良質なエンタメにはなりえないですから。

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いいちこらぼ、最強の演出アイテム「アイデア発想を助けるいいちこベースのオリジナルカクテル」。サンフランシスコのトップバーテンダーがレシピをつくりました。


3:「1アイデアソン」ではなく「1プラットフォーム」をつくる。

ぼくがプロモソンを立ち上げる際に常に意識しているのは「汎用性の高いフォーマットを創る」ことです。今までのアイデアソンは「1つのお題に対してひとつのタイトル」が当たり前でした。しかし、茶ッカソンやいいちこらぼは、お題は、お茶のことでなくてもいい、焼酎のことでなくてもいい、としています。

どういうことかというと、ぼくらは茶ッカソンを「お茶を飲みながら新しいアイデアについて考える現代版茶会」と、いいちこらぼを「いいちこベースのカクテルを飲みながら新しいアイデアについて考える知的バー空間」と定義しているのです。

そこで話されるお題は「なんでもいい」ということになります。

これが産み出した副産物が「さまざまな企業や団体とのコラボ」です。たとえば2016年12月には、伊藤園主催ではなく、港区さんの主催で「茶ッカソン」を開催しました。茶ッカソンのすでに持っている世界観やコミュニティベースを借りることで、より効果的な港区さんのファンコミュニティづくりを狙ったのです。伊藤園さんの主催ではないのですが、角野さんや河原やFC POPというユニットを一緒にやっているタムラカイくんといった、いつも一緒に茶ッカソンなどをつくっている仲間をきちんと巻き込み、ハイクオリティの茶ッカソンを一緒につくりあげました。

こうすることで港区さんにしてみたら「伊藤園さんは港区の活性化のために貢献してくれる!」という気持ちになりますし、茶ッカソンチームからすると、茶ッカソンを今後ますます広めていくための大事な仲間として、港区さんとつながることができます。「関わるひとたちがみんな嬉しい状態」をつくることができるのです。


茶ッカソンは、港区さんの他にも、Orenchi Ramenさん(ラーメン)、ダイワハウスさん(住宅)、ソニーさん(スマートホーム)、ヤマハ発動機さん(人工知能)、TOTOさん(ウォシュレット)、聖光学院さん(中学生、高校生による起業アイデア)などなど、さまざまなパートナーとコラボレーションを展開しています。このように「お茶を媒介して新しい発想が生まれる場」を多くの会社さんや団体さんとつくっていくことにより、茶ッカソンという場の持つブランド力を上げ、汎用的に新規アイデア創造に活用できる、1つのプラットフォームとして地位を確立させているのです。


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2014年5月に茶ッカソンをはじめて以来、ぼくはなんとなく「ぼくのやるアイデアソンは他のファシリテーターのやるものとは違うなあ」と勘付いていました。これを説明する術を持たなかったので、なんとなく「芸風の違い」で片付けていたのですが、昨年の秋にいいちこさんと東京ではじめて「いいちこらぼ」を開催した際「ひょっとしてこれはアイデアソンを進化させた新しい発明をしているのではないか」と再発見し「プロモソン」という名前をつけました。

いつかどこかにまとめてプロモソンについて書こう、とだけ思い、説明はまったくせずに、11月に公開した港区茶ッカソンの告知ページのプロフィールに「プロモソン提唱者」と書いていたのですが、これを友人のタムラカイくんが拾ってこんなブログにまとめてくれました。なんだ、こっちのほうがまとまってる気がする(笑)。本当に、ここに書かれているとおりのことを考えていたのです。

tamkaism.com

まったく説明してないのに、このあたりの概念がタムラくんに伝わったのは、彼が「いいちこらぼ」に参加していて、このアイデアソンが実はただのアイデアソンではない!と気づいていたからでしょう。それ以降、タムラくんはこのプロモソンづくりの相棒となっていて、FC POPというファシリテーションユニットを組んで、一緒に新しいプロモソンづくりに取り組んでます。実は、いくつかの大きなクライアントさんと、すでに新しいプロモソンの計画が進行中だったりもするのですよ。

もう一度、冒頭の角さんの言葉に戻ってみましょう。何かこう、答えのひとつとして、成立している気がしませんか?

「アイデアソンはアイデアを出すより、つながりができることが価値です。アイデアソンの価値の再定義をする時期にきているのではないでしょうか。アイデアソンの名前も変えるべきかもしれない。」


プロモソンは、日本人(河原あずや、タムラカイくんや、伊藤園さんや、三和酒類さん)が産み出した発明であり、日本発の新しいアイデアソンの進化形です。一緒にやってくれる仲間も募りたいですし、ぜひ一緒に盛り上げて、シーンを作っていきたいなと思っています。