河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

イベントで世界を変えられるたった1つの理由〜「弱い紐帯」に着目せよ!

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ニフティが運営するイベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー」のイベントにて。ニフティの三竹社長を中心に、ヤフー、リクルート、NTT、シャープ、ソニーなどの新規事業に関わる人たちが満面の笑みでカルチャーカルチャーのシャツを着て混じり合っている一幕です。この光景を支えるキーワードが「弱い紐帯です。


ぼくの職場の「東京カルチャーカルチャー」ニフティが2007年8月からおよそ10年間運営しているイベントハウス型飲食店です。ニフティは、ご存知の方が多い通り、インターネット接続や、クラウドビジネスの会社ですから、なぜネットの会社なのにイベントハウスを運営しているのか、不思議に思う方も少なくありません。

しかし、ぼくにとってみると、ネット企業がイベントを実施することは、まったく不思議なことではありません。なぜなら、イベントやミートアップ、そして、それらを重ねることで生まれる「リアルなつながり」は、特に新規性のあるビジネスづくりの領域において、大きなプラスになるからです。

「オープンイノベーション」が日本のビジネスの世界で流行語になって久しいですが、この1、2年、日本国内で、新規事業創造を目的としたイベント、ミートアップや、ハッカソンが増えてきました。日本でうまくまわっているかどうかの評価は別の方に譲ろうと思いますが、激しい環境変化により新しいビジネスを創ることが難しくなっている今「イベントは新規事業創造に役立つ」という仮説があるからこその流行なんだろうと思います。

日本での評価はさておき、おそらく日本でイベントなどを繰り返すことでオープンイノベーションを実践しようとしている人たちの多くが手本にしているイノベーションの聖地・サンフランシスコやシリコンバレーでは、実際に、イベントやミートアップのコミュニティが、新しいビジネスの創出に大きく寄与しています。シリコンバレーの強さの秘訣は、ミートアップやコミュニティの分厚さにあると言ってもいいくらいです。

ぼくが2013年8月に赴任して2016年7月に帰任するまでに、ニフティシリコンバレーで着実に新規事業開発の領域で成果をあげてきました。もうひとりのニフティ駐在員として、ニフティクラウドの立ち上げを牽引した上野聡志氏が2015年7月に赴任してからは、ニフティが現地で培ったコミュニティベースを生かし、期間とリソースの少なさにしては、多くのスタートアップとの提携案件を形にすることができました。

IoTを家庭に普及させるテクノロジーを北米から持ち込み国内でビジネス化するのを目的にニフティ東急電鉄がつくったジョイントベンチャー「Connected Design」の案件はサンフランシスコでのリサーチとネットワークから生まれました。IoTプラットフォームのスタートアップ「MODE」への出資や、CDNのスタートアップ「Fastly」との提携も、現地でつちかったネットワーク経由で飛び込んだ案件でした。

これらの案件は、もちろん、事業開発のプロである上野さんの頑張りがあってこそ実現したものです。しかし、赴任してわずか3ヶ月で彼が現地スタートアップとの商談を活性化し、半年で案件をモノにできたのは、2013年夏からニフティが培ってきたネットワークの基礎があったからでしたし、そのネットワークのほとんどは、イベントやミートアップを繰り返すことで、生まれたものでした。

シリコンバレーでぼくたちがイベントやミートアップを通じて手にいれたもの、それは「弱い紐帯(ちゅうたい)」と呼ばれる、緩い仲間意識を持つ、生きたつながりでした。それが、これらの案件をもたらす、大きな要因になったのです。

社会学の世界で提唱されている弱い紐帯の強さ」理論を、ご存知でしょうか? 実は、イベントが世界を動かす理由の根源が、この理論には隠れているのです。

これは、アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェッタ氏が提唱している理論です。英語では「The strength of weak ties(弱い紐帯の強さ)」と表現されます。

ラノヴェッターによれば、新しく、高い価値のある情報は、自分の家族や親友、職場の仲間といった社会的つながりが強い人々よりも、知り合いの知り合い、ちょっとした知り合いなど社会的つながりが弱い人々からもたらされる可能性が高いというのです。

家族や職場の仲間とのつながりを「強い紐帯」、ちょっとした知り合いとのつながりを「弱い紐帯」と彼は表現しています。いっけん見過ごされがちなこの「弱い紐帯」のほうに着目したのが、この理論のポイントです。

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わかりやすく手書きで「弱い紐帯理論」を図解してみました。


ビジネスに必要な人脈と聞いて、みなさんが想像するのは、緊密な関係を結んでいる同僚や、関連会社や、ビジネスパートナーかもしれません。しかし、この緊密な「強い紐帯」の関係からは、新しくて革新的な情報というのはもたらされません。同じコミュニティに属している中で流通する情報は、細部にわたる詳細な情報ではあるかもしれませんが、基本的には新規性はない「内輪(Internal Network)」の情報です。

しかし、実際にビジネスを大きく動かすような情報や案件は、実は普段出入りしている密な場の「外側」(New Cluster)からやってくることが多いのです。そして「内輪」と「外側」のハブとなる「緩いつながりを持つ存在」が弱い紐帯」(Weak Tie)です。

振り返ってみると、シリコンバレーでの提携案件のきっかけは、直接あった回数が2回しかなかったジャーナリストからの紹介や、数ヶ月ぶりにあったコンサルタントからの紹介がきっかけでした。それぞれの出会いが偶発性に満ちており「まさかこの方から情報がもたらされるとは!」という印象の出来事でした。そして、それぞれの「弱い紐帯」との出会いは、現地や日本でのイベントだったのです。

ちなみに、上記のジャーナリストの方とあった最初の場所は、まさに、伊藤園さんと一緒にニフティが2014年5月に共催した「第1回 茶ッカソン」なのです!

サンフランシスコ・シリコンバレーでは、この「弱い紐帯」を生かす方法論を、そこでビジネス活動をするローカルの企業やスタートアップの方々が、自然にとっています。そして、その文化の核となっているのが、イベントやミートアップなのです。

イベントやミートアップでは、特定のテーマに関心のあるさまざまなバックグラウンドを持つ方が、さまざまな場所から訪れます。前回の記事でも述べましたが、この、興味ベース、問題意識ベースで立ち上がった「はっきりとしたテーマ性」が、ネットワークづくりの効率性を生み出します。そして、さまざまな属性の方が自然と混じり合うことで、多様な緩いつながりが会を通じて形成されます。

日本ではFacebookが主でしょうが、サンフランシスコ・シリコンバレーではLinkedInを活用して、この緩いつながりをキープする場合が多いです。あいさつしたり、名刺を交換した方に、LinkedInの申請をし、コネクションを蓄積します。

そして、例えば、とあるジャンルをビジネス上掘る必要がある、となったときに、LinkedInのコネクションをあらためて掘り返すのです。リーチしたい特定の会社の人がいたらその人に直接「久しぶり!このミートアップであった●●だよ」と連絡します。もしくは、直接リーチしたい候補の会社とのコネクションを持つ、比較的近しい人を見つけ出し、その人経由でおめあての人を「紹介」をしてもらいます。結果、割と高確率で、ミーティングをセットアップすることが可能です。

この例をみると、LinkedInを通じて商談のためにコンタクトをとっているのは「ちょっとした知り合い」か「知り合いの知り合い」です。自身の関心領域周辺のミートアップでつながりを創ることは、効率的に特定テーマにおける「弱い紐帯」を作り出すということに直結するわけです。

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サンフランシスコ・シリコンバレーでネットワーク構築を支えるLinkedIn


もっと言うと、この「弱い紐帯」を更に効率的に構築する方法があります。それは「イベントやミートアップを主催すること」です。

ぼくがサンフランシスコ・シリコンバレーでイベントやミートアップを繰り返したのは、最初は直感からの行動だったのですが、後から思えば、来るべきときに備えて、この「弱い紐帯」をはりめぐらせるためでした。

主催者になれば、イベントやミートアップのテーマを「自身の関心領域」にいくらでも近づけることができ、結果、自身と近い関心を持っている人たちを一気に集めることができます。同じイベントをシリーズ化すれば、その人たちとのつながりを維持したり、再活性することも可能です。要するに、ビジネスに役立つ「弱い紐帯」づくりを、自らの手でキュレーションできるのです。

更に更に。自身がイベントやミートアップを主催して人を集めると、特定テーマにおけるスペシャリストと関心のある人たちを自身をハブにしてつなげることができます。面白いもので、自身がハブとなって、相手に質の高い情報を提供すると、したぶんだけ、めぐりめぐってその提供量や精度に応じて情報が返ってくるのです。

また、イベントやミートアップの中で「場を一緒に創る」共同作業をすると、仲間意識が芽生え「ちょっと遠いがいざというときに役立つ」人との生きたつながりが生まれます。

イベントやミートアップを通じ参加者にGiveを続けると、そのお返しのGiveをする人たちも増えてきたり、Giveをした相手が、自分たちが困ったときに、ちょっとした無理を聞いてくれるようになったりします。

そもそも良質なイベントやミートアップを開催すること自体が、コミュニティに対する「Give」になります。シリコンバレーでは、ニフティがイベントやミートアップをして色々な方々を混ぜていくことで、日本人コミュニティがまず活性化され、そこに親日のローカルの方々がどんどん参加してくれるようになり、今まで混ざらなかった層の人たちがどんどん仲良くなっていきました。ニフティさんのミートアップで友達が増えた、人生が変わった、そこのつながりで就職できた、そこでの出会いで起業したという方まで複数でてきました。

「自分の損得を先に考えない」のが、このGiveの効能を最大化するポイントでもあります。結果的に、サンフランシスコ・シリコンバレーの活動では、ぼくがGiveしてきた以上のGiveが、時を経てぼくの手元に返ってきました。結果、滅多にあえないキーマンが、いざという時にぼくらに質の高いアイドバイスをくれたり、案件を紹介してくれたり、別のキーマンを紹介してくれたり、メディアに紹介してくれたり、「ニフティは素晴らしいことをやっている」とぼくたちが何も頼んでいないのにプロモーションしてくれたり、あちこちで持ち上げてくれるようになったのです。


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帰任した後も、サンフランシスコ・シリコンバレーとまったく同じ思想で、ぼくはイベントやミートアップを繰り返しています。同じ問題意識を持つ人たちを集め、盛り上げ、つなげ、ひたすらGiveを続けています。すると、リピーターの増加と人づての紹介で、ますます案件が増え、体がもう2つ3つくらい欲しいくらいに(笑)ひっぱりだこの状態になってきました。

ニフティさんは素晴らしいことをやっている」「"ニフティとなら、きっとかなう。"というコーポレートスローガンをこういった活動を通じて体現されている」と言ってくださる外部の方も増え、その中には本当に社会的に影響力のある方も含まれています。シリコンバレーでの経験を生かし、新規事業系やスタートアップ系のイベントを増やすことで、ニフティの事業部との商談に結びついたケースも出てきました。

それらは、作為もなにもなく、自然と発生しているのです。ぼくらはただ、Giveを続けているだけです。結果、相手からGiveが返ってきつつあるのです。

イノベーティブと呼ばれるような「画期的なビジネス」がどのように生まれるか、その解はぼくは持ち合わせていませんが、過去の経験からひとつだけ確信を持って言えることは「イベントなどのリアルコミュニティ活動は(少なくとも中長期的には)新規なものを創り出すビジネス活動に大きく寄与する」ということです。

ぼくらは、イベントやミートアップをやめることはないでしょう。その活動が実は、広がっていく「弱い紐帯」の網を通じて、いざというとき助けてくれるたくさんの味方を作り、たくさんの周囲からのGiveを生み出し、ぼくらのビジネス活動を支えてくれるベースになると、確信しているからです。(逆に、短期的な視点でこれをやめてしまえば、すべてが台無しです。どんどん組織からGiveの精神が薄れ、社会からTakeを続けるだけの集合体ができあがるだけです。)

しかも、素晴らしいことには、ぼくらだけでなく、ぼくらの活動を通じて、関わってくれる周りの人たちも「弱い紐帯」を構築することができるのです。

結果、業界全体が活性化し、さらに社会全体が活性化し、新しいモノコトがどんどん生まれてく世界が出来上がってくるとぼくらは信じています。

WWW.(World Wide Web)という電子ネットワークの網は、世界を変えました。そして次の時代は「弱い紐帯」の織りなす人的ネットワークの網(Real Network)が、世界を変えると信じています。

だからこそ、ぼくらはイベント、ミートアップ、コミュニティづくりを、今日も明日もこの先も、ずっとずっと続けていくのです。


当ブログ記事に書かれていることは個人の見解であり、所属組織の公式な見解を述べているものではありませんので、ご留意ください(まあ一応)。

 

弱い靭帯、と表記してましたが、一方的かんちがいで、正しい訳は「弱い紐帯」とのことでした。つつしんで訂正します。