河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

「想い」を抽出し共感ベースでイベント運営ができる「エモグラフィ」活用のススメ。

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エモグラフィ(感情表現記法)を使うことで、共感ベースのイベントやコミュニティ運営ができるようになります。


前回のブログ記事で「イベントをやるのに一番大事なのは「想い」」という話をしました。とても反響があったのですが、実際のところ「想い」なんてどう見つけるんだ?と迷われる方もいらっしゃると思います。普段「想い」をもって活動されている方でも、それを他人に説明するとなるとなかなか難しいので、当然のことです。

しかし、潜在的に「想い」を持っている方であれば、2時間弱でそれを引き出すことは可能です。まだぼんやりしている方でも、その方向性を見出すことくらいはできます。「エモグラフィ」を使うのです。

エモグラフィとは「エモーション(感情)」と「グラフィ(記法)」を組み合わせた造語で、ラクガキをベースにしたメソッドです。FC POPというユニットを組んでさまざまなイベントで一緒に活動する相棒・タムラカイが開発しました。彼のメソッドはしごくシンプルで誰でも応用でき、しかもより直感的に自分の想いを引き出すことができると好評です。

tamkaism.com


ぼく自身「エモグラフィ」を会得してからおおよそ3ヵ月あまりですが、その間に、イベントのサポートの過程で、何名かの方にお試しで、それを使った対話の時間を持ちました。すると、対話相手が、それまでなかなか表には出づらかった自分の想いが引き出せたり、自分では意識してなかった「無意識の動機」が引き出されたり、迷いながら進んでいたところの方向性が見えたりして、それぞれの活動の方向性づくりに貢献したのです。

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教えるのも教わるのも5分で終わる、とても簡単にマスターできる記法です。(画像はタムラカイのブログ「タムカイズム」より引用


エモグラフィが役立つのは、想いの抽出だけではありません。実は日々のイベントやコミュニティ運営において、端々で役に立つのです。詳しいメソッドの説明は上にリンクをはったタムラのブログ記事などに譲るとして、「エモグラフィ」がイベントをやる人間にとってどう役立つのかを以下書き出そうと思います。ぜひ皆さんも参考になさって下さい。


1:自分のやっていることの方向性に迷いがなくなる

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エモグラフィを使うと、自分の「想い」や「行動」がわずか10分でこのようにまとめられます。イベント屋さんにとって、とても役に立つメソッドです。

第一に、自分の想いが純度高く取り出せる分、自分の進んでいく方向性に迷いがなくなります。

自分自身で今の状況や気持ちをまとめあげて抽出する方法と、他人に抽出してもらう方法があります。前者は慣れると、上の写真のように、数十分という時間でまとめられるようになります。上は状況を中心にまとめていますが、顔に吹き出しなどをつけると「自分の内面の掘り起こし」に活用できます。

上のぼくの例は、すでに描き慣れているので、綺麗にまとめられている例だと思いますが、エモグラフィは絵を描くのに慣れてない方でも活用可能で、もっとシンプルなものであればすぐにマスターできます。自分の表情を描いて、吹き出しを描いて、その表情の自分が何を考えているのかを想像して書き込んでいくだけで仕上がります。

他人に抽出してもらう方法はもっと簡単です。エモグラフィができる人に、1時間程度、話を聞いてもらい、それをまとめてもらえばいいのです。そこで、記録をしている聞き手に言葉を引き出してもらい、自分が語った言葉を記録し、最後に記録を見ながら振り返ってみると、かなり言葉が整理され、純度の高い想いが引き出せます。

さて、迷いがなくなると、いいことがたくさんでてきますが、主に3つです。

「端的に自分の想いを他人に伝えられる」

結果、想いに共感してくれる味方が増えます。イベントやコミュニティは共感ベースで物事が動くので、活動の柱となります。

「やるかやらないかの判断軸になる」

何かをやるかやらないかの判断を「想いから生まれた向かうべき方向性」というものさしではかってジャッジできます。

「使命感が生まれる」

自分の想いにそった行動をやり遂げようという覚悟や使命感が生まれます。人間不思議なもので、ずっと言葉にだして自分の想いを繰り返すと、徐々にその想いが凝縮され、強い意志へと変化していきます。

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上は、サンフランシスコに住むJ-POP SUMMITのディレクター吉田さんに対して、エモグラフィを使った想いの抽出(コーチング的な作業)を行ったときの写真です。このときは、話を引き出してぼくが記録する方法ではなく、エモグラフィを使い、自分で抽出する方法をとりました。

彼はそれまでは自分の想いがなかなか表にでなかったのですが(2年間かなりの時間を共にしたぼくにもはっきりと言ったことはなかったくらいです)これ以降打合せの最初に「なぜ自分がJ-POP SUMMITをやっているか」をとても明確に言えるようになりました。抽出につかった時間は3時間。このプロセスを経ることで「他人を巻き込む想いある言葉」が生まれ「使命感ある行動」につながっていったのです。

他にも、打合せなどの過程で、さまざまなコミュニティ主催者やセミナー講師の方の想いの抽出をお手伝いしてみました。みなさん「自身の仕事にもエモグラフィを生かしてみる!」と興奮して帰っていくのが共通した特徴です。

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「想いの抽出」のお手伝いした方のエモグラフィノートの例。
                

2:「お客さんの想い」ベースで場をつくれる

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エモグラフィを使った企画案分析プロセスの例(「肉とビールでダイエット!?ナイト」インサイトの抽出)


第二に、エモグラフィを使うと、自分の想いだけではなく、相手の気持ちに寄り添った企画ができるようになります。

エモグラフィは人の表情をベースとした記法なので、お客さんの表情をイメージしながら、場のイメージを組み立てることが容易になります。

例えば、男性の若いお客さんが笑顔になっている表情を描いて、吹き出しを描くと、なんでその男性の若いお客さんが楽しい気持ちになっているかが共感ベースで推理できます。退屈な表情のときは、なぜ彼が退屈なのかを推理することができます。結果「想像の中のお客さんの笑顔をつくるためには?」という起点から、その場をどう組んだり、どういうコンテンツをつくれるかを、立体的に考えることができるのです。(デザイン思考における「ペルソナ」っていうやつに該当します)

お客さんだけではなく、運営メンバーにも同様のことが言えます。チームメンバーの表情を描いて考えてみれば「一緒に動いているチームメンバーの気持ちに寄り添ったコミュにテイ運営」が可能になります。

また、ぼくのチームでは、タムラカイを講師に招いて、チームビルディングのためのエモグラフィ・ワークショップを開催してます。チームメンバーにも好評で、それぞれの想いが確認でき、チームの方向付けを全員で実行できます。5人の小さなチームですが、小さなチームだからこそ、考えのコアをより凝縮することもできます。

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エモグラフィは、共感ベースの場作りや、チームビルディングにも有効です

「他人の想い」ベースで場をつくることの大事さは下の「利休七則」の回でも描きました。エモグラフィは、それを実現するための、最も有効な手段のひとつです。

azkawahara.hatenablog.com


3:イベントのフィードバックが効率的になる

イベントが終わった後に、たくさんの表情をノートに描いて、イベントのよかったこと・悪かったことを羅列すると、よくある「Good/Bad」ベースのイベントの反省よりも、効率的な振り返りができます。「Good/Bad」は誰視点で語るかによって両面あることが多く、イベントの振り返りには少しあわない部分もあるのかな、と個人的には考えてます。そうではなく表情ベースで振り返りを行うと「こういう人の視点だとポジティブで、だけどこういう人の視点だとネガティブ」という多面的な分析が可能になります。


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エモグラフィを活用した「肉とビールでダイエット!?ナイト」の振り返りの例


また、上の写真のように表情と組み合わせて漫画的な「吹き出し」を使うと、より深堀りした振り返りが可能になります。

たとえば「お客さんが盛り上がりすぎてビールがなくなった」というフィードバックがあったとして、もう一段掘り下げると「買ったビールの数が足りなかったかもしれない」「ビールの提供時間を遅くしたらどうだろう?」「けど遅くしたらこんな盛り上がりは作れなかったかも…」「そもそもビールがなくなるくらい盛り上がったって、いい場が作れたってことだよね!!」「みんな表情は満足げだったし不満を言う人もいなかったよ!」などと、フィードバックを多層化することができます。結果、より掘り下げられたイベントの反省が可能になります。

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他にも様々なユースケースはありますが、このように「共感ベース」でイベントやコミュニティを運営するにあたり、エモグラフィは、とても有効です。また、他の仕事を進めるにあたってももちろん役に立ちます。会議や振り返り、新規企画、育成など、さまざまな局面で活用できます。

ぼくと打合せをすると、エモグラフィを使ったノートを描いたり、その説明をすることもあるので、生で聞いてみたいという方は、ぜひイベント案件をたずさえて(笑)アポをとってみてください。

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エモグラフィ(ラクガキ)を活用した河原あずのノートの例

そうそう。相棒でありエモグラフィの発案者・タムラカイがこんな本を出しているので、こちらを読んでみるのもいいかもしれませんね。タムラはけっこうな頻度でセミナーも開催しているので、そちらも一度受けてみるのもいいかもしれません。

 

www.amazon.co.jp