河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

ファシリテーターは「空気」をつくる仕事〜心地いい「場」をデザインする5つの要素。

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ファシリテーターは「促進者」と訳されますが、ぼくの解釈では「場の空気をつくる人」です。


ファシリテーターとはどんな仕事ですか?と聞かれると、ぼくは「空気をつくる仕事」と答えます。もちろん、さまざまなプロセスがそこには必要ですし、重要なポイントは瞬間瞬間変わってくることも多いですが、最終的なゴールは何か、と考えると、その時間・空間における「空気」をデザインすることだと思うのです。

ファシリテーションに求められるのは、ワークの設計であり、コミュニケーションのデザインであり、アウトプットへの誘導であり、場の合意形成ですが「場の一体感の醸成」はすべてのプロセスを円滑にするのに、プラスに作用します。あえて極論を言ってしまえば、その場に一体感を生み出すことができれば、いいアウトプットが生まれる確率は格段に上がります。ワークの巧拙や進行のテクニックのひとつひとつよりも、成功要因としては大きいのではないかなと思います。

人間は感情の生き物なので、置かれている環境にアウトプットの質が左右されやすいのです。雰囲気のいい場所からはいいアイデアが生まれやすいですし、逆もまたしかりです。自分の個性を認めてくれる空気に包まれると、やはりいいアイデアが生まれやすいですし、逆もまたしかりです。

ではどのように「空気」をつくればいいのか。そのデザインにおいて、入れ込むように心がけている5つの要素を以下にまとめます。

具体的な事例として、伊藤園さんが主催している「茶ッカソン in Tokyo 2017」の初日(2017/11/27開催)で、ぼくがファシリテーターとして実行したプロセスを以下にまとめます。今回の茶ッカソンは2日間に分けて開催されており、初日は、インプットワークとチーミングのために実施されました。さまざまなエッセンスを凝縮して設計したので、何かのヒントになれば幸いです。

1:「アイスブレイク」で参加者の自己承認欲求を満たす

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アイスブレイクで使ったA4用紙ワークのサンプル


アイスブレイクは、多くの参加者が初対面の状態で、緊張感をとくのに必要なプロセスですが、逆にいうとここでアプローチを間違えると、参加者の緊張感を緩和できないまま、だらっとスタートしてしまい、戸惑いの空気をつくってしまうことがあります。

たとえば「はい!それではひとり1分ずつ自己紹介してください!」と進行するのはよくみる展開ですが、実際自分がやられることを想像すると、シャイな日本人には、これもなかなかハードルが高いものです。

グループで簡単なゲームをすることもありますが、これも「ガヤガヤ」をつくるのに有効なものの、悪く言うと「やった感」だけが残ってしまうケースもあります。また、集団でおこなうゲームは、参加者の「自己承認欲求」が満たされずに終わってしまうことが多く、参加者が物足りなさを持ったまま議論に入ってしまうこともあります。

ではどうすればいいか。ぼくがファシリテーターをやるときには「議論のテーマの深掘り」と「自己紹介」の合いの子のような導入を設計することが多いです。

「茶ッカソン in Tokyo 2017」のテーマは「お茶のある空間」でした。そこでまず「お茶」と聞いて思い出す4つのキーワードを、A4用紙に書いてもらいました(※)。

ここで重要なのは、自分ごとしてぱっと思いつく「お茶」にまつわるキーワードを主観的に書いてもらうことです。

主観的なキーワードが出た後に、隣のひととキーワードについて共有してもらいます。そうすると、自然と「お茶」についての説明のはずが「お茶にまつわる自分史」の説明に転化されます。テーマに即した自分語りをする場が与えられることで、テーマについてのインサイトの掘り下げられるし、自己承認欲求も満たされます。会話した人とも仲良くなりますし、一石三鳥なアイスブレイクになるのです。

※なお、このA4ワークを使ったアイスブレイクは、FC POPというユニットで一緒に活用しているタムラカイの得意技で、彼のワーク手法をアレンジして実施しました。


2:「深堀り」と「発散」の往復運動を繰り返す

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インプットトークとワークを組み合わせて「深堀り」と「発散」を繰り返します。


冒頭で「主観的な語り」をいれて、参加者のインサイトを掘り下げましたが、一方で、客観的な情報も参加者にインプットして、アウトプットの精度をあげる必要もあります。「茶ッカソン in Tokyo 2017」では、お〜いお茶を発明した伊藤園の専務の社さんと、スウェーデンからやってきたお茶の伝道師・ブレケル・オスカルさんをゲストとして招聘。お茶のトレンドについてのインプットトークを行いました。

しかし、ただのプレゼンテーションやパネルトークになると、アイスブレイクでつくった熱が覚めてしまうので、ふたりのゲストにも、まったく同じワークをやってもらい、4つのキーワードを出し、それをベースにトークを組み立てました。

そうすることで参加者からみると「登壇者は自分たちと同じ参加者なのだ」と思えるし、トークへの没入感も増します。

お茶の専門家のおふたりですから、主観的に語っても、客観的な情報はトークの中に自然と入ってきますし、そのバランスをぼくが進行に入り、適度に調整していきます。

一度参加者は、アイスブレイクでお茶について自分ごととして考え、お茶に関するインサイトを深めたあとなので、このトークの浸透度は格段にあがります。これが「深堀り」のプロセスです。

しかし「深堀り」したまま、アウトプットがすぐできないのももったいないものです。一度、お茶について自分ごととして考えて語ったので、知識の深化が起きてくると、参加者は、自分の考えたことについてしゃべりたくてうずうずしてきます。

そんな折りをみて「茶ッカソン」では「心地いい空間」についてぱっと思いつく3つのキーワードを参加者と登壇者に書いてもらい、先に書いた「お茶」のキーワード4つと突きあわせ、なんらかの共通点があるかを、参加者同士で語ってもらう「発散」のプロセスを入れ込みました。

主観で語り、専門的な客観知識の一端に触れたあとの「発散」なので、参加者会話もより深まるし、思考の精度も上がります。

登壇者のおふたりにも同じように「お茶のある心地いい空間」についてしゃべってもらい、インプットワークをクローズしました。演出として、壇上とフロアで同じワークを実施して、双方の垣根をつくらないことが、会場の一体感を高めるのに役立ったようにも思います。

3:スイッチを切り替える瞬間をつくる

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江戸時代に流行した「煎茶道」を下敷きにした「非日常体験」に誘うワーク


導入でだいぶ空気も暖まりましたが、ここで更に会への没入をうながすために、非日常感を演出するプロセスを入れ込みました。それが「煎茶道」という、江戸時代に流行った風流遊びを下敷きにしたワークです。

ここまでのプロセスは、楽しく進められていたものの、基本的には「お勉強モード」なので、一定の硬さがあることは否めません。

次に求められるのは、参加者の心の「スイッチ」を切り替えることです。

普段あえてやらないが、やってみると夢中になる象徴的な行動を入れ込むと、心のスイッチは切り替わりやすいです。

たとえばディズニーランドを思い出して下さい。ミッキーの耳を買って頭にかぶると、とたんに没入感が増すと思います。スタジアムを思い出して下さい。チームのユニフォームをスタジアムではおると、気持ちが切り替わりませんか?

そのような「今は非日常体験なんだよ」と明示できるようなプロセスを、テーマに即して自然と入れ込むと、場における参加者の熱が、ふわっと上がります。

「茶ッカソン」では、ここで3人組をくんでもらい、お茶と急須と紙とペンを配り、「ひとりはお茶をたてて配り、ひとりはお題に即した絵を描き、ひとりは詩(コピー)を書く」というワークを実施しました。江戸時代に流行った「煎茶道」の説明もし、その現代版だというインプットをすることで、これは「非日常体験」なのだと参加者に刷り込み、スイッチを切り替えてもらいます。

このときのお題は「お茶のある空間 in 近い未来」だったので、茶ッカソンのテーマディスカッションの1プロセスを、普段とはちょっと違うマインドで進めることができました。この「普段とちょっと違うマインド」をどれだけ持ってもらえるかが「いい空気づくり」においては重要なのです。

また、会の最後には「座禅」を取り入れて、電気を消して、会場に敷かれた畳の上で、その日いちにちの振り返りをしてもらいました。これも「スイッチの切り替え」プロセスのひとつです。

4:「緊張」と「弛緩」の往復運動を繰り返す

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人前でのプレゼンは「緊張」と「弛緩」の結果「快楽」を生み出す重要プロセス


作ったアウトプットは、14グループ全グループに1分間プレゼンしてもらいました。ディスカッションは和やかな空気がつくれますが、プレゼンとなると一定の緊張感が走ります。順番も決めず、ランダムにこちらから指名したので、いつまわってくるかもわかりません。

実は、これだけのプロセスにも、場の空気をつくるエッセンスが複数含まれています。

まず1分間のプレゼン時間は「時間厳守」です。オーバーしそうならカウントダウンして、時に強制終了します。この「オーバーは許されない」という緊張感がポイントで、無事プレゼンを終えたら、プレゼンテーターは緊張感から解放され、気持ちが弛緩状態に(ゆるく)なります。会場からの拍手が、プレゼンテーターの承認欲求を満たしてくれ、快楽が生まれます。

いつ出番がくるかわからない、という状況も、緊張感を助長します。前に出てプレゼンする、というものも、慣れていないひとにしてみると、とても緊張するものです。

しかし、緊張が増せば増すほど、解放されたときの快楽は大きくなります。

実は「緊張」と「弛緩」は、イベントの演出においては基本となるものです。人間は、緊張状態から解放されたときに、大きな快楽を得るようにDNAに刷り込まれています。

 

たとえば、なぜ、おばけ屋敷が気持ちいいかといったら、恐怖体験という緊張状態から無事解放されたときに「よかったー」と安心することで、快感を覚えるからです。ハラハラする映画の展開にも同じことがいえます。追い詰められた主人公に対する緊張感と、ハッピーエンドのときに生まれる開放感(弛緩)。

これがずっと緊張状態だと、多くの人の気持ちは維持できません。逆にゆるみっぱなしだと、メリハリのないだらっとした場所になってしまいます。

 

この往復運動をつくり、バランスをとることは、演出家としてのファシリテーターの重要な役割ですし、参加者が「気持ちよくなる」空間を作り上げることで、より参加者が没入できる場を構築できるのです。

5:「偶然をデザイン」する

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門外不出の、今回のワークプロセスの企画書です!


このプレゼンを終えたあとにやったのは、「煎茶道」ワークでチームになっていた3人組に他の3人組をみつけてもらい、6人組のペアをつくることでした。プレゼンの内容にシンパシーを覚えるグループを思い出してもらい、仲間を見つけるよう誘導することで、チーミングを促しました。

ポイントは「このチームは運命共同体」と思ってもらうことです。なので、チーム分けはあえて最初からせずに、上記の半日のプロセスを経て「ようやく出会った」と思ってもらう仕掛けにしました。

しかし、一連のプロセスを経て「自分たちとシンパシーを覚えるグループ」をチームメイトとして採用してもらったので、ある程度のマッチングはできたチーミングになっていますし、それぞれの考えを理解した上で受け入れられてるので、次からの議論の精度は上がるように設計されています。

ぼくがファシリテーターで入るときは、この「偶然性」という要素を多分に折り込みます。

たとえば、ワークの枠組みはつくっても、できるだけチームの議論の自由度が高まるよう設計します。たまにセミナーなどでみるような「与えられたペーパーのすべての枠を埋めることでアウトプットを誘導」するような、フレームワーク重視のプロセスは、滅多に採用しません。

なぜかというと「偶然性のデザイン」こそが、参加者のクリエイティビティを引きだす、最大の肝になると考えているからです。

 

偶然性が多い方が、参加者に「自分が行動を選んだ」と思ってもらえますし、ひとつひとつのプロセスにおいて、主観的に振る舞うことが可能になります。それがそれぞれの個性を引き出し、クリエイティビティあふれるアウトプットづくりにつながるのです。

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「茶ッカソン in Tokyo 2017」初日の最後には「一期一会」という、禅の教えからくる話をして締めくくります。今日この時間・空間、そして今日生まれた仲間は二度と再現できない。この一期一会の出会いをいかして、次回のグループディスカッション、ぜひ頑張ってください。そういう話をしました。そうすると結果、それぞれの個性と多様性を尊重した、オープンな議論が導けるはずでしょう。

前回の記事も書いた通り、多様性とオープンマインドは、Serendipityの源泉です。この場でしか起こりえない出会いを設計することこそが、場における「空気づくり」の、唯一無二の役割と言えるかもしれません。

茶ッカソン2日目は12月16日に開催されます。初日にできたチームによるグループディスカッションとプレゼンテーションが展開されます。どんなアイデアが飛び出してくるか、ファシリテーターとしても、とても楽しみにしています。

今回の記事は、ひとつの会の進行を具体的に引きながら、どういう思想で設計されているかを、包み隠さず書いてみました。かなり珍しい貴重な記事な気がします(笑)ぜひとも何かの参考になれば幸いです。


今回の記事は高柳謙さんが発起人となった「ファシリテーター Advent Calender 2017」の12月3日担当分として執筆されました。高柳さん、筆不精な自分に貴重な機会を与えてくれて、ありがとうございます!

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