河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

イベントはタイトルが9割!〜企画を当てたければ "名付け"に命を懸けろ!

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いいネーミングが浮かぶといいイベントのイメージが一気に出来上がる。「茶ッカソン」はまさにその好例と言えます。

前回の記事で「イベントは司会が9割」と書いておきながら、舌の根の乾かぬうちに断言します。「イベントはタイトルが9割です!」まあ、足すと18割になるということなので、イベント名がよくて司会がいいと、イベントが約2倍よくなると、そう解釈してください(笑)。


しかし実際の話、イベント名は、企画の中で最も重要な要素と言っても、過言ではないかもしれません。

企画書の話でも書きましたが、イベントのタイトルが浮かべば、企画はできたも同然です。逆に言うと、タイトルが浮かばないと、企画は完成できないのです。タイトルだけ浮かばなくて、企画を保留にすることすらあります。いや、52点くらいのネーミングなら、比較的容易に出てくるんですけど「これしかない!」というタイトルがピタッとはまるときははまるし、もっと何かでてくるはずだ、というモードになります。

そして、実際苦しんだ後に、ネーミングが降ってきたときのあの感覚は、本当に快感です。「画竜点睛」の故事に例えると、絵に描いた龍に、黒い目を入れる瞬間が、イベント企画においては「タイトルの決定」だと思うのです。

ぼくの場合はですが、ふとした拍子に突然にタイトルが降ってくるときが多いです。例えば、会議が煮詰まっていまいちネーミングが定まらずにいる帰り道、ぼんやりと夜道を歩いてると浮かんできたり。お風呂入ってるときだったり。電車乗ってる移動時間だったり。

時々起きるのは「トイレにいく前後に浮かぶ」です。会議が煮詰まったときに、トイレに立つときに、時々、「あ、なんかでそうだ」と予感がする瞬間があります。(もちろんトイレで「出すもの」以外です。念のため)。で、用を足して、すっきりした瞬間に、ピン、とネーミングが、天啓のごとくやってきます。後で紹介する「茶ッカソン」と「BIO HACK THE FUTURE」は、トイレに立った際に生まれました。

ぼくにも説明つかないんですけど、こういうのって、張り詰めた空気の場ではでてこず、自分がリラックスできる瞬間に、脳の緊張もふと緩み、その刺激が手伝ってドーパミンか何かがでてきて、ふわっと脳がまわりやすくなるんだと思うんですよね。

ぼくが尊敬する企画屋に、Jリーグのサッカーチーム・川崎フロンターレの宣伝部長をしている天野春果さんという業界有名人の天才がいます。イベントの企画を一緒に立てたこともあるのですが、彼もダジャレネーミングを軸にしたイベント企画づくりを得意としてて「まったく一緒やんー!」と、勝手にシンパシーを持っています。そんな天野さんは「企画名はパチンコ屋か風呂で思いつくなあ。名前が出た瞬間、企画ができた!!ってなるよ」と言っていて、ああ、似てるなあ、と一方的に思ったりもするのでした。

では、そんなぼくが名付けてきた大事な子どもたち、イベントのネーミングを以下にご紹介します。どれも「名前が浮かんで企画が完成した」イベントたちです。


「茶ッカソン」

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ニューヨークで2016年8月に開催された「茶ッカソン(Chackathon)」外国の方も混ざってのアイデアソンでは、英語での進行もやります。


サンフランシスコに駐在しているときに、シリコンバレーでおーいお茶をグーグルやFacebookなどの著名スタートアップに売り込み、伊藤園の売上を何倍にも増やした伝説の営業マン・角野賢一さんとのブレストに付き合ったときに、浮かんだネーミングです。

角野さんが、米国での茶ッカソン布教の盟友にのちになる後任の宮内栄一さんを引き連れ「伊藤園ハッカソンやりたいんです!」といって、ぼくのところに相談にきたのが2014年の1月でした。彼は春の帰任を控え、後任の後輩を引き連れ、帰る前に、自分が多大なる影響を受けた「ハッカソン」(エンジニアやデザイナーなどが集まり、1日2日程度かけて、あるお題に対してプロダクトの卵をつくる、シリコンバレー発祥のイベントのことです)をサンフランシスコで開催してから帰りたいと、何の前置きもなしに言ってきました。ぼくはサンフランシスコで何度かイベントをやっていたくらいで、そこまでイベント活動を活発にしていた時期ではなかったのですが、イベントならとにかくあずに聞け、と、エバーノートの外村さんというキーマンに紹介されて、来たと言います。

エバーノートの日本法人会長の外村さんの紹介とあれば、むげにもできず、ミーティングでブレストに付き合うことにしました。まあアイデアソン(ハッカソンから、アイデアだしのプロセスだけを切り抜いたイベントがアイデアソンで、半日で完結させることができ、開催ハードルもハッカソンに比べてとても低いのです)くらいならできるかもしれないですね、けどそもそも名前が「伊藤園ハッカソン」だと面白くないですし、続く気がしませんね…。伊藤園がやる必然性のあるストーリーとか世界観が必要だと思うんですよねえ、と、きょとんとする角野さんと栄一さんの前でまず話をしました。

 

そのあと数時間、ああでもない、こうでもない、どういうアイデアソンにしようか、と、もう1人サンフランシスコに赴任してたニフティ社員の米田さんを混ぜてブレストしました。けど、いまいち固まらない。伊藤園さんが持ってきたお茶をたくさん飲んで膀胱が膨れたぼくが、ふらふらしながらトイレにいき、用を足してる瞬間に、このネーミングが「降って」きました。

戻ってくるなりホワイトボードに黒いマーカーで「これどうでしょう、イケると思うんですけど」って描いたのが「茶ッカソン」という5文字。

嘘のような本当の話で、これが、サンフランシスコ・シリコンバレー、東京をはじめ、シアトル、ニューヨーク、京都などなど各地でシリーズ化された「茶ッカソン」のはじまりでした。「茶ッカソン」という名前が浮かんだ瞬間に、キャッチもリードも浮かんできて、世界観からイベントの雰囲気までイメージが怒涛の勢いで湧いてきて、「アイデアを着火する」なんて派生のダジャレまで出てきて、それをそのまま角野さんに渡しました。それをサンフランシスコのキーマンたちに角野さんが見せてまわったときに「これを考えたやつは天才だな!」と言われたそうで、とても嬉しかったのを覚えてます。そのあたりの経緯は、アスキーさんのこちらの記事に詳しいです。

シリコンバレー発で、角野さんが日本に上陸させた「茶ッカソン」が日本経済新聞アスキー東洋経済、ねとらぼなどで取り上げられて快進撃で話題を呼ぶにつれて「(野球のパリーグの)パパパパパッカソン」「(百均ショップとのコラボの)ヒャッカソン」などなどと、ダジャレでもじったハッカソン・アイデアソンが増えたのも面白い現象でした。たぶんハッカソンオーガナイザーのみなさんが「茶ッカソン」をみて「あ、こんなんでいいのか!アリなのか!」と気付いて「●●ハッカソン」というネーミングから切り替えたんだと思うのですよね。ぼくは勝手に自分のことを「ダジャレ系ハッカソン・アイデアソンの祖」と呼んでいますが、あながち間違いでもない気がします。実態はわからないですけど(笑)


「茶ッカソン」は名前の敷居の低さと独特の間合いのおかげか、テクノロジー系ではない方々、一般の方々の参加が多いのがひとつの特徴になっています。「茶ッカソン」って名前だけに惹かれてきた、なんて方までいて嬉しい限りです。結果、ハッカソン・アイデアソンの中ではコミュニティとして独自の進化を遂げているわけで、本当に名前って大事だなと思う事例です。

peatix.com


あ、茶ッカソン in SHIBUYAの応募締め切りが1月11日の19時までなので、興味のある方はお早めにこちらから応募どうぞ!


いいちこらぼ」

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サンフランシスコで開催された第1回「いいちこらぼ(iichiko-lab)」の様子


「茶ッカソン」の成功を目の当たりにし、伊藤園さんとも仲のいい三和酒類さんのアメリカの責任者の宮崎哲郎さんと考えたのが「焼酎を使ったアイデアソン」でした。けど、実は申し訳ないことに「アイデアソンやりたい」という宮崎さんのお誘いを、何度か保留してたんです。

なぜかというと「はまるイメージが湧いてこなかったから」。

いや、正確に言うと、イメージはありました。まず前提として、お酒という商材のこともあるので「茶ッカソン」と同じことはできない、というのがありました。茶ッカソンは子供でも参加できますが、焼酎を扱った瞬間に無理になります。それに加えて、お酒の持っている「セクシーさ」をコンセプトの中に表現したいな、と思っていたのです。お茶は、清らかさ、とか、無常観などの禅のイメージや、文化的で、もっとニュートラルなイメージがありますが、お酒を扱うのであれば「いい意味での不良感」や「高揚感」も表現したかったのです。そうなると、もちろん開催は、昼ではなく、夜がいいし。

けど、イメージはあれど、それを体現する企画がなかなか出てこなかったのです。お互い多忙にしていたというのもあって、頭の片隅には常にあったものの、三和酒類さんとのアイデアソンの企画は、しばらく実現しないままでした。

で、最初に「アイデアソンやりたいんです」と宮崎さんから言われて1年半くらいたった2016年の4月に「J-POP SUMMIT」という大きなイベントのプレイベントでいいちこイデアソンをやろうという流れになり、その打ち合わせの最中に遂にひとつのアイデアがぼくの脳内に閃きました。

それは「脳を刺激したり、心を落ち着かせる焼酎ベースのカクテルをサーブしながら進める、大人のための知的バー空間」というコンセプトを軸にしたアイデアソンの案でした。なんだったらステージにバーカウンターをつくり、照明もバーのように演出し、音楽もムーディーにして、ドレスコードもつくっちゃおう。1年半貯めていたものが噴き出すがごとくに、イメージが湯水のごとくわいてきて止まらなくなりました。


「これはいける!絶対カタチにできます!」となって、サンフランシスコのトップバーテンダーにアイデアソン用のオリジナルレシピ作成まで発注したのですが、なかなかネーミングが浮かばない。最初のコードネームは「いいちこそん」でしたがひねりがない。「Hang-thon」というのが2番目のコードネームでしたが、わかりづらいし、セクシーさがいまいち表現されてないし、日本でやることも想定していたので、英語に頼りすぎないネーミングがいいなと思ってボツに。かなり悩みました。

いろいろ悩んだ挙句にふとわいてきたのがいいちこらぼ」という名前でした。英語だと「iichiko-lab」。labはラボラトリー(研究所)の略で、新規事業を生み出す拠点にも使われます。そして、英語だと「らぶ」と発音します。これを「LOVE」と掛けたダジャレにしつつ(ちゃんとアメリカ人にも受けました(笑))「いいちこ+コラボレーション」「いいちこ愛」「いいちこ+ラボラトリー」という3つの意味がかけあわさり、しかも響きも柔らかくて口に出して言いやすい。三和酒類さんの大事なブランド「いいちこ iichiko」の訴求にもつながる!と、浮かんだ瞬間に即決していました。

いいちこらぼ第1回はサンフランシスコで2016年の6月に開催。これがアメリカ人のトップバーテンダーやお酒のメディアの編集者が目を丸くするくらいの大盛況。三和酒類さん社内にも評判はすぐに広まり、ぼくが帰任したあとの同年11月に東京第1回を開催しました。三和酒類創業家の役員の方も審査員として参加いただき大興奮で拠点のある大分県宇佐市まで帰られました。三和酒類さんの中でもとても愛されている、ニフティと育てている大事なイベントのひとつです。

「BIO HACK THE FUTURE」

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これもトイレで降ってきたネーミング。しかも、ロゴごとセットで浮かびました(笑)。言うのも野暮ですが「BACK TO THE FUTURE」のパロディです。

バイオテックに特化したとてもニッチなコミュニティイベントをやりたい、だけど研究者とかマニアだけの勉強会的な集まりにはしたくなくて、ポップな開かれたイメージでやりたい、というデジタルガレージさんと500 Startups Japanさんのオーダーで、企画の骨組みを考えました。そのときにも、企画の内容は大体見えたのだけど、あとはネーミングだけ!という状態になりました。このときは「何か出てきそうで出てこない」という、まるで喉に魚の小骨がひっかかったような状態が1時間くらい続きました。

ただ、トイレにいきたくなったときに「ひょっとして、いいの出てくるかな?」という予感がちょっとあったんです。本当に。ただ、そんなにうまいこといくわけないだろう、とか疑いつつ用を足したのですが、あら不思議、出すものだしたら、また降ってきたじゃないですか。

このときも、トイレから戻って、検討メンバーに案を見せた瞬間に「おおお!」と感嘆の声がわき、一瞬で企画が固まりました。

「DEMO DAY THE MOVIE」

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これも500 Startups Japanさんとニフティ東京カルチャーカルチャーの共同企画です。2015年12月、当時はサンフランシスコ拠点だったぼくが、発足したての500 Startups Japanに日本出張で訪問した際に「シリコンバレーのデモデイ(何十ものスタートアップが自社サービスのプレゼンテーションを実施する一種の卒業式イベント)を動画を流しながらパブリックビューイングするイベント」の構想を伝えたところ、瞬時に「やりましょう!」と回答いただき、今や3ヶ月に1回開催する風物詩イベントになってます。

 

サンフランシスコの起業家の岩山さんという方と打ち合わせしてるときに「シリコンバレーのデモディを臨場感たっぷりに動画で伝えるイベントってありかも」という話題になったのが発端で、この企画のアウトラインが生まれました。


で、タイトルですが、これはぼくの中ではけっこうレアケースで、企画のアウトラインがある段階から頭の片隅に、コードネーム的にずっとありました。最初から「DEMO DAY THE MOVIE」というイメージの元、出来上がった企画だったんですね、たぶん、自分の中では。(…というあいまいな表現使うくらいに、どうやってひねり出したのか覚えていないのです。)

通常は、何かが映画化されるときに慣用句的に使われる「〜THE MOVIE」ですが、デモデイ映像自体をコンテンツ化するこのイベントには、別の意味ではまるな、と思ったのです。これはイベント仮タイトルとして500 Startupsに提示した段階で、すんなり通りました。上のバナーはぼくのデザインですが、とにかくB級映画感を意識して作りました。

ちなみに第2回をやるときに「Season2」とつけたのは、500 Startups Japanの澤山陽平さんです。澤山さんから第2回のタイトル案が届いて、見た瞬間にニヤリとしました。この感覚が通じるから、ずっと一緒にイベントやれるんだろうなあ。以降、Season4まで続いてます。

……
他にも公開しているものからプライベートなものまで、無数のイベントやコミュニティの名付けを行ってきました。「名前をつける」というのはそれだけで象徴的な意味合いもでてきますし、各企画が自分の子供のような、そんな思い入れが生まれます。いいタイトルがついたほうが、可愛がり方も増しますし、自分の子供として送り出す以上は、時間などの制約はあれど、やはり、納得した名前で送り出したいものです。

冒頭に少し書きましたが、ぼくのイメージでは「イベントの名付け」は、「画竜点睛を欠く」で言うところの、筆で龍の目に、黒目を描く瞬間です。つまり、まだ平面なままのイベント企画を「立体化」するために、魂を吹き込む儀式です。ここは、イベント屋としての命を懸けて、臨んでいる場面でもあります。大げさに言うのであれば。

企画が当たるか当たらないかは生物ですし、運次第なところもあります。しかし、いいイベント名は、確実に、成功の確率を引き上げます。そのネーミングひとつで、関係者のモチベーションも変わってきますし、お客さんの期待も変わってくるからです。とにかく、わかりやすく、伝わりやすく、だけどハードルが下がる、親しみが持てるようなネーミングを、悩みながら、ひねりだしている日々です。

BGMは、スピッツで「名前をつけてやる」。締めにどうぞ。

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