河原あずの「イベログ」

コミュニティ・アクセラレーター 河原あず(東京カルチャーカルチャー)が、イベント、ミートアップ、コミュニティ運営で日々考えることを記録してます。

イベントはタイトルが9割!〜企画を当てたければ "名付け"に命を懸けろ!

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いいネーミングが浮かぶといいイベントのイメージが一気に出来上がる。「茶ッカソン」はまさにその好例と言えます。

前回の記事で「イベントは司会が9割」と書いておきながら、舌の根の乾かぬうちに断言します。「イベントはタイトルが9割です!」まあ、足すと18割になるということなので、イベント名がよくて司会がいいと、イベントが約2倍よくなると、そう解釈してください(笑)。


しかし実際の話、イベント名は、企画の中で最も重要な要素と言っても、過言ではないかもしれません。

企画書の話でも書きましたが、イベントのタイトルが浮かべば、企画はできたも同然です。逆に言うと、タイトルが浮かばないと、企画は完成できないのです。タイトルだけ浮かばなくて、企画を保留にすることすらあります。いや、52点くらいのネーミングなら、比較的容易に出てくるんですけど「これしかない!」というタイトルがピタッとはまるときははまるし、もっと何かでてくるはずだ、というモードになります。

そして、実際苦しんだ後に、ネーミングが降ってきたときのあの感覚は、本当に快感です。「画竜点睛」の故事に例えると、絵に描いた龍に、黒い目を入れる瞬間が、イベント企画においては「タイトルの決定」だと思うのです。

ぼくの場合はですが、ふとした拍子に突然にタイトルが降ってくるときが多いです。例えば、会議が煮詰まっていまいちネーミングが定まらずにいる帰り道、ぼんやりと夜道を歩いてると浮かんできたり。お風呂入ってるときだったり。電車乗ってる移動時間だったり。

時々起きるのは「トイレにいく前後に浮かぶ」です。会議が煮詰まったときに、トイレに立つときに、時々、「あ、なんかでそうだ」と予感がする瞬間があります。(もちろんトイレで「出すもの」以外です。念のため)。で、用を足して、すっきりした瞬間に、ピン、とネーミングが、天啓のごとくやってきます。後で紹介する「茶ッカソン」と「BIO HACK THE FUTURE」は、トイレに立った際に生まれました。

ぼくにも説明つかないんですけど、こういうのって、張り詰めた空気の場ではでてこず、自分がリラックスできる瞬間に、脳の緊張もふと緩み、その刺激が手伝ってドーパミンか何かがでてきて、ふわっと脳がまわりやすくなるんだと思うんですよね。

ぼくが尊敬する企画屋に、Jリーグのサッカーチーム・川崎フロンターレの宣伝部長をしている天野春果さんという業界有名人の天才がいます。イベントの企画を一緒に立てたこともあるのですが、彼もダジャレネーミングを軸にしたイベント企画づくりを得意としてて「まったく一緒やんー!」と、勝手にシンパシーを持っています。そんな天野さんは「企画名はパチンコ屋か風呂で思いつくなあ。名前が出た瞬間、企画ができた!!ってなるよ」と言っていて、ああ、似てるなあ、と一方的に思ったりもするのでした。

では、そんなぼくが名付けてきた大事な子どもたち、イベントのネーミングを以下にご紹介します。どれも「名前が浮かんで企画が完成した」イベントたちです。


「茶ッカソン」

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ニューヨークで2016年8月に開催された「茶ッカソン(Chackathon)」外国の方も混ざってのアイデアソンでは、英語での進行もやります。


サンフランシスコに駐在しているときに、シリコンバレーでおーいお茶をグーグルやFacebookなどの著名スタートアップに売り込み、伊藤園の売上を何倍にも増やした伝説の営業マン・角野賢一さんとのブレストに付き合ったときに、浮かんだネーミングです。

角野さんが、米国での茶ッカソン布教の盟友にのちになる後任の宮内栄一さんを引き連れ「伊藤園ハッカソンやりたいんです!」といって、ぼくのところに相談にきたのが2014年の1月でした。彼は春の帰任を控え、後任の後輩を引き連れ、帰る前に、自分が多大なる影響を受けた「ハッカソン」(エンジニアやデザイナーなどが集まり、1日2日程度かけて、あるお題に対してプロダクトの卵をつくる、シリコンバレー発祥のイベントのことです)をサンフランシスコで開催してから帰りたいと、何の前置きもなしに言ってきました。ぼくはサンフランシスコで何度かイベントをやっていたくらいで、そこまでイベント活動を活発にしていた時期ではなかったのですが、イベントならとにかくあずに聞け、と、エバーノートの外村さんというキーマンに紹介されて、来たと言います。

エバーノートの日本法人会長の外村さんの紹介とあれば、むげにもできず、ミーティングでブレストに付き合うことにしました。まあアイデアソン(ハッカソンから、アイデアだしのプロセスだけを切り抜いたイベントがアイデアソンで、半日で完結させることができ、開催ハードルもハッカソンに比べてとても低いのです)くらいならできるかもしれないですね、けどそもそも名前が「伊藤園ハッカソン」だと面白くないですし、続く気がしませんね…。伊藤園がやる必然性のあるストーリーとか世界観が必要だと思うんですよねえ、と、きょとんとする角野さんと栄一さんの前でまず話をしました。

 

そのあと数時間、ああでもない、こうでもない、どういうアイデアソンにしようか、と、もう1人サンフランシスコに赴任してたニフティ社員の米田さんを混ぜてブレストしました。けど、いまいち固まらない。伊藤園さんが持ってきたお茶をたくさん飲んで膀胱が膨れたぼくが、ふらふらしながらトイレにいき、用を足してる瞬間に、このネーミングが「降って」きました。

戻ってくるなりホワイトボードに黒いマーカーで「これどうでしょう、イケると思うんですけど」って描いたのが「茶ッカソン」という5文字。

嘘のような本当の話で、これが、サンフランシスコ・シリコンバレー、東京をはじめ、シアトル、ニューヨーク、京都などなど各地でシリーズ化された「茶ッカソン」のはじまりでした。「茶ッカソン」という名前が浮かんだ瞬間に、キャッチもリードも浮かんできて、世界観からイベントの雰囲気までイメージが怒涛の勢いで湧いてきて、「アイデアを着火する」なんて派生のダジャレまで出てきて、それをそのまま角野さんに渡しました。それをサンフランシスコのキーマンたちに角野さんが見せてまわったときに「これを考えたやつは天才だな!」と言われたそうで、とても嬉しかったのを覚えてます。そのあたりの経緯は、アスキーさんのこちらの記事に詳しいです。

シリコンバレー発で、角野さんが日本に上陸させた「茶ッカソン」が日本経済新聞アスキー東洋経済、ねとらぼなどで取り上げられて快進撃で話題を呼ぶにつれて「(野球のパリーグの)パパパパパッカソン」「(百均ショップとのコラボの)ヒャッカソン」などなどと、ダジャレでもじったハッカソン・アイデアソンが増えたのも面白い現象でした。たぶんハッカソンオーガナイザーのみなさんが「茶ッカソン」をみて「あ、こんなんでいいのか!アリなのか!」と気付いて「●●ハッカソン」というネーミングから切り替えたんだと思うのですよね。ぼくは勝手に自分のことを「ダジャレ系ハッカソン・アイデアソンの祖」と呼んでいますが、あながち間違いでもない気がします。実態はわからないですけど(笑)


「茶ッカソン」は名前の敷居の低さと独特の間合いのおかげか、テクノロジー系ではない方々、一般の方々の参加が多いのがひとつの特徴になっています。「茶ッカソン」って名前だけに惹かれてきた、なんて方までいて嬉しい限りです。結果、ハッカソン・アイデアソンの中ではコミュニティとして独自の進化を遂げているわけで、本当に名前って大事だなと思う事例です。

peatix.com


あ、茶ッカソン in SHIBUYAの応募締め切りが1月11日の19時までなので、興味のある方はお早めにこちらから応募どうぞ!


いいちこらぼ」

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サンフランシスコで開催された第1回「いいちこらぼ(iichiko-lab)」の様子


「茶ッカソン」の成功を目の当たりにし、伊藤園さんとも仲のいい三和酒類さんのアメリカの責任者の宮崎哲郎さんと考えたのが「焼酎を使ったアイデアソン」でした。けど、実は申し訳ないことに「アイデアソンやりたい」という宮崎さんのお誘いを、何度か保留してたんです。

なぜかというと「はまるイメージが湧いてこなかったから」。

いや、正確に言うと、イメージはありました。まず前提として、お酒という商材のこともあるので「茶ッカソン」と同じことはできない、というのがありました。茶ッカソンは子供でも参加できますが、焼酎を扱った瞬間に無理になります。それに加えて、お酒の持っている「セクシーさ」をコンセプトの中に表現したいな、と思っていたのです。お茶は、清らかさ、とか、無常観などの禅のイメージや、文化的で、もっとニュートラルなイメージがありますが、お酒を扱うのであれば「いい意味での不良感」や「高揚感」も表現したかったのです。そうなると、もちろん開催は、昼ではなく、夜がいいし。

けど、イメージはあれど、それを体現する企画がなかなか出てこなかったのです。お互い多忙にしていたというのもあって、頭の片隅には常にあったものの、三和酒類さんとのアイデアソンの企画は、しばらく実現しないままでした。

で、最初に「アイデアソンやりたいんです」と宮崎さんから言われて1年半くらいたった2016年の4月に「J-POP SUMMIT」という大きなイベントのプレイベントでいいちこイデアソンをやろうという流れになり、その打ち合わせの最中に遂にひとつのアイデアがぼくの脳内に閃きました。

それは「脳を刺激したり、心を落ち着かせる焼酎ベースのカクテルをサーブしながら進める、大人のための知的バー空間」というコンセプトを軸にしたアイデアソンの案でした。なんだったらステージにバーカウンターをつくり、照明もバーのように演出し、音楽もムーディーにして、ドレスコードもつくっちゃおう。1年半貯めていたものが噴き出すがごとくに、イメージが湯水のごとくわいてきて止まらなくなりました。


「これはいける!絶対カタチにできます!」となって、サンフランシスコのトップバーテンダーにアイデアソン用のオリジナルレシピ作成まで発注したのですが、なかなかネーミングが浮かばない。最初のコードネームは「いいちこそん」でしたがひねりがない。「Hang-thon」というのが2番目のコードネームでしたが、わかりづらいし、セクシーさがいまいち表現されてないし、日本でやることも想定していたので、英語に頼りすぎないネーミングがいいなと思ってボツに。かなり悩みました。

いろいろ悩んだ挙句にふとわいてきたのがいいちこらぼ」という名前でした。英語だと「iichiko-lab」。labはラボラトリー(研究所)の略で、新規事業を生み出す拠点にも使われます。そして、英語だと「らぶ」と発音します。これを「LOVE」と掛けたダジャレにしつつ(ちゃんとアメリカ人にも受けました(笑))「いいちこ+コラボレーション」「いいちこ愛」「いいちこ+ラボラトリー」という3つの意味がかけあわさり、しかも響きも柔らかくて口に出して言いやすい。三和酒類さんの大事なブランド「いいちこ iichiko」の訴求にもつながる!と、浮かんだ瞬間に即決していました。

いいちこらぼ第1回はサンフランシスコで2016年の6月に開催。これがアメリカ人のトップバーテンダーやお酒のメディアの編集者が目を丸くするくらいの大盛況。三和酒類さん社内にも評判はすぐに広まり、ぼくが帰任したあとの同年11月に東京第1回を開催しました。三和酒類創業家の役員の方も審査員として参加いただき大興奮で拠点のある大分県宇佐市まで帰られました。三和酒類さんの中でもとても愛されている、ニフティと育てている大事なイベントのひとつです。

「BIO HACK THE FUTURE」

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これもトイレで降ってきたネーミング。しかも、ロゴごとセットで浮かびました(笑)。言うのも野暮ですが「BACK TO THE FUTURE」のパロディです。

バイオテックに特化したとてもニッチなコミュニティイベントをやりたい、だけど研究者とかマニアだけの勉強会的な集まりにはしたくなくて、ポップな開かれたイメージでやりたい、というデジタルガレージさんと500 Startups Japanさんのオーダーで、企画の骨組みを考えました。そのときにも、企画の内容は大体見えたのだけど、あとはネーミングだけ!という状態になりました。このときは「何か出てきそうで出てこない」という、まるで喉に魚の小骨がひっかかったような状態が1時間くらい続きました。

ただ、トイレにいきたくなったときに「ひょっとして、いいの出てくるかな?」という予感がちょっとあったんです。本当に。ただ、そんなにうまいこといくわけないだろう、とか疑いつつ用を足したのですが、あら不思議、出すものだしたら、また降ってきたじゃないですか。

このときも、トイレから戻って、検討メンバーに案を見せた瞬間に「おおお!」と感嘆の声がわき、一瞬で企画が固まりました。

「DEMO DAY THE MOVIE」

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これも500 Startups Japanさんとニフティ東京カルチャーカルチャーの共同企画です。2015年12月、当時はサンフランシスコ拠点だったぼくが、発足したての500 Startups Japanに日本出張で訪問した際に「シリコンバレーのデモデイ(何十ものスタートアップが自社サービスのプレゼンテーションを実施する一種の卒業式イベント)を動画を流しながらパブリックビューイングするイベント」の構想を伝えたところ、瞬時に「やりましょう!」と回答いただき、今や3ヶ月に1回開催する風物詩イベントになってます。

 

サンフランシスコの起業家の岩山さんという方と打ち合わせしてるときに「シリコンバレーのデモディを臨場感たっぷりに動画で伝えるイベントってありかも」という話題になったのが発端で、この企画のアウトラインが生まれました。


で、タイトルですが、これはぼくの中ではけっこうレアケースで、企画のアウトラインがある段階から頭の片隅に、コードネーム的にずっとありました。最初から「DEMO DAY THE MOVIE」というイメージの元、出来上がった企画だったんですね、たぶん、自分の中では。(…というあいまいな表現使うくらいに、どうやってひねり出したのか覚えていないのです。)

通常は、何かが映画化されるときに慣用句的に使われる「〜THE MOVIE」ですが、デモデイ映像自体をコンテンツ化するこのイベントには、別の意味ではまるな、と思ったのです。これはイベント仮タイトルとして500 Startupsに提示した段階で、すんなり通りました。上のバナーはぼくのデザインですが、とにかくB級映画感を意識して作りました。

ちなみに第2回をやるときに「Season2」とつけたのは、500 Startups Japanの澤山陽平さんです。澤山さんから第2回のタイトル案が届いて、見た瞬間にニヤリとしました。この感覚が通じるから、ずっと一緒にイベントやれるんだろうなあ。以降、Season4まで続いてます。

……
他にも公開しているものからプライベートなものまで、無数のイベントやコミュニティの名付けを行ってきました。「名前をつける」というのはそれだけで象徴的な意味合いもでてきますし、各企画が自分の子供のような、そんな思い入れが生まれます。いいタイトルがついたほうが、可愛がり方も増しますし、自分の子供として送り出す以上は、時間などの制約はあれど、やはり、納得した名前で送り出したいものです。

冒頭に少し書きましたが、ぼくのイメージでは「イベントの名付け」は、「画竜点睛を欠く」で言うところの、筆で龍の目に、黒目を描く瞬間です。つまり、まだ平面なままのイベント企画を「立体化」するために、魂を吹き込む儀式です。ここは、イベント屋としての命を懸けて、臨んでいる場面でもあります。大げさに言うのであれば。

企画が当たるか当たらないかは生物ですし、運次第なところもあります。しかし、いいイベント名は、確実に、成功の確率を引き上げます。そのネーミングひとつで、関係者のモチベーションも変わってきますし、お客さんの期待も変わってくるからです。とにかく、わかりやすく、伝わりやすく、だけどハードルが下がる、親しみが持てるようなネーミングを、悩みながら、ひねりだしている日々です。

BGMは、スピッツで「名前をつけてやる」。締めにどうぞ。

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イベントは司会が9割!〜カルカルで学んだイベントを成功に導く3つの司会術

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普通のイベントプロデューサーには一般的ではないのかもしれませんが、東京カルチャーカルチャーでは、すべてのプロデューサーが、多くのイベントで司会進行も行います。

イベントを盛り上げるための要素はたくさんありますが、その中でも重要なピースは「司会(MC)」です。ぼくの職場の東京カルチャーカルチャー(カルカル)のコンテンツの多くは登壇者によるトークを軸とする「トークライブ」であり、トークライブでは、他のエンタメコンテンツに比べても、ますます進行役である司会の重要性は増します。チーフプロデューサーでありぼくのイベントの師匠の横山さんは「イベントは司会が9割」とよく言います。

確かに、さまざまな外のトークイベントをみると、司会進行に不満を覚えることは多いです。「俺のほうがうまくやれるよ!」みたいなライバル心もなくはないのですが(笑)さまざまな要素が不満の要素にはあります。たとえば、声が小さい、とか、登壇者のひとりのトークが長くなりすぎて配分ができてない、とか、会場は「もう終わってよ」という空気なのにどんどん伸びる、とか、まあ、いろいろです。

トークコンテンツにおいては、司会は各コンテンツの「ファシリテーター」を兼ねることも多いです。Facilitateとは、英語で「促進する」という意味で、要するにこの場合の司会の役割は「トークの促進役」ということになります。

一方で、たまにみられるのが「みなさまに質問です。〜についてどう思いますか?●●さんはいかがですか?▲▲さんは〜?」という前振りだけを登壇者にして、あとはひたすら聞くだけ、という司会進行役です。いわゆるビジネスイベントの「パネルトーク」にありがちな展開なのですが、これが何をFacilitate(促進)しているかと言うと、うーん、促進役、というか、調整役で、手旗信号でやってる交通整理の域を出ていないなあ、という気も致します。

このスタイルでも面白くなるときは、あります。しかし、実はこのスタイルは、個々の登壇者のトークスキルへの依存度がとても高いのです。この手旗信号の「前振り」に対して、面白い小話ができる登壇者がいれば、どかんと盛り上がります。しかし、たとえば3人登壇者が並ぶときに、3人ともこのような話術に長けていることは非常に少ないです。

ぼくが進行役をするときに心がけるのは、この依存性をできるだけ廃して、話が上手なひとはもっと上手にみせ、あまり前で話すことに慣れていない方の個性も引き出し会話に混ぜ、ここでしか聞けない話がどんどん飛び出すようにして、会話にリズムとグルーヴをもたらし、お客さんに「この話が聞けてなんかよかった!」と思わせるようにしよう、ということです。

そのために心がけていることが、主に3つあるので、ご紹介しますね。

まず1つ目は、自身の立場を「最も登壇者に近い観客」と位置付けることです。

どういうことか。まず、登壇者の話に対して、とにかく反応します。うなずいたり、相槌を口にだしていったり、「え?そうなんですか?」と混ぜ返したり。不自然に見えない程度に、やや大げさに分かりやすくこういうリアクションを繰り返します。こうすることで「ノリ」と「熱」が産まれます。だって、みなさんのプライベートでも、聞き手がうんうんと熱心に反応してくれたほうが、トークに熱が入りやすいですよね。それとまったく一緒のことをやります。

そして、ただ相槌をうつだけではなくて、本当に自分が、相手の話題に熱心に食いつき、没入していくことが大事です。たとえ、本来は自分の関心とは遠いテーマでも、とにかく「この会話にすごく興味があるしどんどん聞きたい!」という「空気をつくる」のです。(ぼくの場合は、たいてい、本当に楽しくなっちゃうし、話をどんどん聞きたくなっちゃうんですけど)

「質問」も大事です。相手の興味を刺激するような質問を必死に用意します。いい質問をひとつ、登壇者にくりだせると、登壇者の自身に対する関心の強さへのアピールになり「この人と会話するのは楽しい!」というモードに引っ張ることができます。質問への答えというのは、そのジャンルに対する登壇者の考え方をあぶりだしますし、同じ質問を他の登壇者に繰り出すとまた別の視点がそこに加わります。質問した当人も気持ちいいし、気持ちいいとますます会話は盛り上がります。

この項目の最後。もうひとつ大事なのは「ツッコミ」です。笑いにつながりそうなことを登壇者がいったらすかさずツッコミをいれます。お笑いバラエティ番組をみているとよくわかりますが、上手な司会の上手さの要因は「ツッコミ」です。登壇者が「さあどうぞ」と美味しいタイミングでネタを投下した際はしっかりツッコミを入れて、ちゃんといじり倒して、会話のグルーヴを作っていくことがとても大事です。

うなづき、相槌、質問、ツッコミ、いじり。それらは実は、心の中でお客さんがトークを聞きながら延々やっていることです。「お客さんの代表」として、客席にいるお客さんが内心思っていること、行動していることを代弁してひとつひとつカタチにしていくと、お客さんがステージに感情移入してくれることにつながります。こんな風に、特等席でトークを楽しんでる観客という感覚を持って、ステージをつくるのをぼくは心がけてます。


2つ目は「すべてのお客さんに優しいトークをつくる」ということです。

ビジネス系イベントのパネルトークによくあるのが「専門用語乱発モード」に入ることです。これが非常に扱いに繊細さが必要でして、専門用語がちょいちょいと飛び出してくると、司会としてのぼくは、モードを切り替えるようにしてます。

 

具体的にはどうするのか、というと、客席のうちほんの数名でも「わからないかも?」という単語が出てきたら躊躇なく止めて「なるほど!ところですみません、●●●ってなんですか?」と聞くのです。知っている単語でも、知らないふりで質問することもあります。難しい概念だったりすると、わかりやすく「ああ、ちょっと難しいけど、要するに●●みたいなものってことですかね?」って噛み砕いた例えで説明を試みます。


実はトークコンテンツにおいていちばん避けなくてはならないのは「内輪談義に陥る」ことです。内輪の話に終始するステージトークには、コミュニティの外からきたはじめてのお客さんは一気に醒めるものです。これでは、開かれたコンテンツにはなりません。

 

専門用語には、無意識に人の縄張り意識を促す効力があるらしく「その専門用語、おれもわかる!」みたいな仲間意識からか、一度飛び出すとどんどん専門用語の応酬になったりするのです。しかし専門用語というのは要するに「究極の内輪の言語」なので、内輪のひとたちにとっては仲間意識が強められるかもですが、外側の人間を結果置いてきぼりにしてしまうことが、ままあるのです。

 

まあ、そこまでいかなくても、わかんない単語がたくさんある本だと、読書が進まなくなる、みたいなことは多々ありますよね。トークライブも本とおなじく「エンタメ」なので、究極に分かりやすさを追究する必要があるのです。

500 Starups Japanさんと一緒にやったイベントで「SMB」という単語がでてきました。スタートアップ系の仕事をしてる方やコンサルさんはよく使うのでステージのみなさんは躊躇なく何度も繰り返し使っていたのですが、ぼくはすかさずに「あの、ぼく横文字苦手なんですが、SMBってなんですか?」って聞きました。ここで勘のいい登壇者は「しまった!」と思ってくれて「スモールビジネスの略ですよ」と返してくれます。ぼくはこう返しました。「ああ、つまり中小企業ですね!なるほど!」

そして、そのイベントの終演後アンケートにこんなものを発見しました。「司会の方が、専門用語を噛み砕いてくれたので、脱落せずに済みました。SMBってわからなくて、一瞬どうしようって置いてきぼりになりかけたんですが、説明してくれて続きに集中することができました!」

 

これは嬉しかったですね。主催者の500 Startups Japanの澤山さんも「さすがプロの司会ですね!これ大事なんですね!」と喜んでくれました。

トークやメディアコンテンツには「コンテンツは自分の母親にもわかるように噛み砕こう」という鉄則もあり、司会はできるだけわかりやすく今行われている会話を進めようと思うのです。しかし、すべての登壇者がしゃべりのプロではないので、わかりやすさをイメージするまでには至りません。それはそうですよね。ステージ慣れしてない方にしてみたら、それが「普通」なのです。であれば、司会がプロ役としてそのポイントをしっかりと意識して、会話をリードしていく必要があるのです。


3番目に心がけているのは「リズムやテンポ」です。安定した、だれない、強弱、メリハリのある会話をつくるよう心がけます。

司会は、時計に対して常に敏感です。時間をどうマネジメントするかが最も大事な仕事のひとつです。司会は、お客さんの表情にも敏感です。お客さんが小さなあくびをひとつしたら、今の話題をまいて、次のトピックに移ってみたりします。司会は、登壇者が大事なこと、いいことを言ったのに、早口で流れてしまったりして客席の反応が薄かった場合、あえてそれをゆっくりと繰り返して強調します。司会は、会話を落ち着けたいときはゆっくりしゃべり、会話をたたみかけたいときはしゃべりのテンポをあげます。

司会進行の仕事って、オーケストラの指揮者に近いなあって時々思うのですが、自身がテンポを作っているのだと強く意識して、トークが単調にならないように心がけてます。

音楽もそうなんですが、リズムやテンポが安定すると、アマチュアのオーケストラやバンドでも、一気に安定感がでてきます。「リズム体」(※)という言葉が音楽の用語にありますが、同じことがトークにもいえます。音楽の根幹は、リズム楽器と低音楽器がつくるビートであり、だからこそ「体」と表現するのです。トークも一緒です。進行役による「リズム体」が安定すれば、素人感が薄れ、プロのステージにより近づきます。「パネルトーク」と「トークライブ」の違いは、このリズム体の違いだと言っても、いいかもしれません。

 

(※ ロックバンドでいうと、リズムを創る係の、ドラムとベースのことです。リズム隊、という表記もありますが、ぼくは「体」という表記のほうがしっくりくるので、こちらを使ってます。ワインでも言いますよね。ボディ。ちなみにバンドでいうと、ドラムとベース以外を「上物」と呼びますが、リズム体という基礎に乗っかってるから「上物」なのです。基礎がないとどんなにうまくても、崩れちゃいますよね。)


……
とはいえ、これらの司会スキルを、ぼくは誰に習ったわけでもありません。すべて独学で身につけました。なぜ身についたかというと、2008年から2012年まで4年間、600本以上のイベントの進行を見続けてきたのが大きかったのです。

そこで、カルカルのプロデューサーの横山さんやテリー植田さん、芸人さんの進行をみて、どうすれば、登壇慣れしていない方をステージにあげても面白く見せられるかを学んだのです。

で、そういう方々が上手なぶん、あまり上手ではない方との違いがよく見えるようになりました。そのあとサンフランシスコにわたり、本格的にイベントの司会をすることになったのですが、とにかく、いい司会、だめな司会をじっと見て、自分なりに考えて、実践しては改善した結果、今まで書いたようなことが徐々にできるようになってきた気がします。とにかく、上達のためには、勉強、観察と、実践あるのみです。

手軽な勉強、観察の方法としては、やはりテレビのバラエティや、ラジオなどで、上手な芸人さんの司会進行などのしゃべりをじっくり聞いてみることをお勧めします。個人的には、タモリさんはもちろん、伊集院光さん、引退されましたが島田紳助さん、マツコデラックスさんなどがとても勉強になる気がします。いずれの芸人さんも「素人いじり」が上手という特徴もあります。意識してバラエティを観るだけでも、だいぶ違いますよ!

ちなみに、個人的には、なんですが、明石家さんまさんはあまり参考になりません。天才すぎるので。たぶん、彼の話術は誰にもまねできませんね…。

Wordに広がる宇宙〜「立体化」できるイベント企画書をつくる

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1/18に開催される500Startups with NIFTY presents「Co-Foundersナイト」の実際の企画書です。

イベントづくりは「企画書づくり」からはじまります。クライアントさんとお仕事をはじめて、ブレストのミーティングも盛り上がり「企画書お待ちしてます!」と締めて数日後、企画書提出。時々、びっくりするクライアントさんもいらっしゃいます。「え?Word1枚ですか?」はい、Word1枚で企画書を作ってます。もちろん、必要に応じて、何枚かのパワーポイントに落とすこともありますが、基本的にはA4で、多くても3枚程度に落としこみます。

上の写真は、1月18日に東京カルチャーカルチャーで開催する500 Startups Japanとのコラボイベント「Co-Foundersナイト」の実際の企画書です。日時、値段設定、ゲスト、想定動員、全体の進行、主催と共催の分担、基本的にはこれで終了です。(お金のパートはもちろんあるのですがそれはさすがにお見せできないのでカットしました。)企画の骨子となるのはこれらの情報ですが、多くのスペースを割くのが「タイトル」と「キャッチ(タイトル脇の説明)」そして「リード(煽り文)」です。そして、この「タイトル」「キャッチ」「リード」の3点セットこそが、企画の成否を決める鍵になります。

ぼくの場合は「タイトル」が浮かんだときに、イベント企画が9割完成します。だいたいにおいて、キャッチは、タイトルが浮かぶとセットで浮かんできます。そのキャッチを膨らませると、だいたいものの数分でリードはできあがります。

たかがA4数枚の企画書、書類に落とし込む時間自体は、最も短いときはわずか15分程度です。しかし、この落とし込む内容を考えるには、何十時間とかかることもあれば、時々浮かびきらずにボツになる企画だって出てきます。この「企画書」までたどり着く企画は、自分の中で「イケる!」と思い、実行フェイズにうつる企画のみです。

では、Word企画書に落とし込める企画とそうでない企画の差はなんでしょうか。ぼくは企画を「立体化」できるかどうか、だと思っています。

「立体化」には2つの意味があります。1つは「実現可能性」です。

テキストの企画書は所詮テキストです。しかし、企画は、実現できるものでなくてはなりません。収支はもちろん、動員もそうですし、ゲストのブッキングもそうです。企画の内容もそうです。あらゆる方向性でシミュレーションして、実現可能性を吟味した上で、企画書を作成する必要があります。実現可能性が半々くらいのものについては、実現可能性の高い代替案も付け加えなくてはなりません。実現できない企画は、ただの妄想であり、机上の空論です。企画は、実行してカタチにするまでが、企画です。企画のスタートは妄想で十分なのですが、企画書に落とし込む段階ではすでに妄想のフェイズは過ぎています。企画書は「これをかたちにします」というコミットメントも含んでいるのですから。

「立体化」のもう1つの意味。それは「イマジネーションの広がり」です。個人的には、とても重要視している部分です。

ぼくはイベントを企画するときに、映像でイベントの中身をいつも考えます。クライアントさんと企画会議をしているときにずっと考えているのは、そのイベントにどんな演者がきて、どんなお客さんがきて、どんな関係者がきて、どういう時間軸で、どういう楽しみ方をしているのか、です。それらを延々と想像します。

どこかにクリアにみえない、映像が曇るポイントがあると、それはイコール、今検討されているアイデアのどこかに無理がある、ということです。そんなときは大体ミーティングでも難しい顔をしながら「うーん、ちょっと違いますね」と言います。クライアントさんからの発案やリクエストに対しても遠慮なく言います。それが最終的に、クライアントさんのためになるからです。

脳内のシミュレーションの内容は、ミーティングでも逐次必要に応じて参加者に共有しますが、全部は共有しません。短い時間ですが、本当に膨大なことを考えているからです。お客さんの客層、男女比などはもちろんのこと、会場のオペレーションのこと、どれくらいの時間に帰るお客さんがではじめるか、遅刻してくるひとはどれくらいいるか、ビールはいつの時間帯になくなるか、どんな機材を使っているか、友達の誰々さんがきっときそうだ、じゃあ彼・彼女はイベントどこのポイントで喜ぶか、どんなことをしたら「ひく」か、終わったあとに「あずさん楽しかったです!」と言ってくるまでにはどんな過程があるか、どういう要素がそう言わせるか…などなど、実に細かいことまで考えてます。細かい情報を一気に与えると細かい話に終始してしまいがちなのでクライアントさんなどとの共有は後回しにしていい事項なのですが、プロデューサーサイドとしては、あらかじめ、自分の中で詳細な部分をシミュレーションしておくこと自体はとても大事なのです。(ちなみに実際の映像再生は走馬灯みたいな感じで脳内をめぐるので、実際の再生時間は数秒だったりします。)


で、そんな映像再生を何度も繰り返していると、たいていミーティングのあるポイントで、クリアに映像がつながるタイミングがあります。そんなときぼくはたいてい「あ、これはイケるな、イケますね」と独り言のように言い出して、ホワイトボードに何か書き出したり、口頭でイベントのイメージを伝えたりします。

ここでミーティング参加者が「それはいい!それですよ!」というリアクションになると、イベント企画は完成したも同然です(クリアな映像になった企画案は、けっこう高確率でそうなります。)。あとは名前が決まればイベント内容が決まる、というフェイズにはいります。(まあイベント名決めること自体も実はそれなりに大変なのですがそれはまた別の機会に。)

あとは自分が思い描いた客層にひっかかるような煽り文章に落とし込めれば、企画は出来上がります。その際、文章も、できる限り平易な言葉で、分かりやすく、だけど自分の描いた映像に基づき、やりたいことの「世界観」が浮かび上がるように作ります。そのため「非日常感」や「物語性」をとても意識しています。けど、あまりに本編の内容とかけ離れてもいけませんから、そこはうまくバランスをとって、文章を仕上げます。

結果、落とし込んだ文章に宿るのが「イマジネーションの広がり」です。イベントのことを説明しているだけなのに、なぜかわくわくして、「この場所にいかないとダメなきがする!」と巻き込みたい方々に思っていただく、そういう期待感を持たせることが重要なのです。

……
どうしてこんな企画書づくりができるようになったかというと、正直言うと、他のやり方を知らないからです。ぼくが、イベントの仕事をやるようになったのは2008年4月。当時28歳。元来人見知りだったぼくは、イベントなんてやったこともないのに、成り行きで東京カルチャーカルチャーに異動になりました(なぜか志望の結果でもあったのですが)。

で、カルカル店長でチーフプロデューサーであり、ぼくのイベントの師匠でもある横山シンスケさんから最初に言われたのは「100本企画書を書け。そして、1本、自分の好きなテーマでイベントをやれ」でした。手本に、と渡された企画書は、A4サイズで1枚程度のWordファイルが数点。けど、そのWordファイルの文体はとても生き生きしていて、他のイベントでは見たこともないものでした。大げさに言うのなら、その数点のWordの中には、「宇宙」のような無限のイメージの広がりがあったのです。

ぼくがまずはじめたのは、その「横山企画書」のコピーでした。自分が「これは面白い」と思ったテーマを見つけ出しては、次々と企画書に落とし込みました。最初はぜんぜんできてなかったけど、ひとつだけ、横山さんが「これでいけば?」と言ってくれた企画書がありました。自分のいちばん好きなバンド「スパイラルライフ」のファンイベントの企画書。これならできるんじゃないか? 思い入れありそうだし、カルカルはL⇔Rの(黒沢)健一くんのライブもやってるし、スパイラルライフのファンにもなじみあるでしょう、と。

 

結果、2008年6月に最初の自主イベント「スパイラルライフブートレッグナイト」が誕生しました。ファンコミュニティの仲間をかき集めて登壇してもらい、必死に告知をして、なんとかカタチにして…動員は30人ちょっとでしたけど、とても楽しかったですね。そこからぼくのイベント人生がスタートしました。

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話が逸れましたが「立体で考える」というのも実は、イベント企画における横山さんの口癖です。ぼくは自分なりに彼の抽象的な表現を解釈して、自分なりの方法でこの「立体化」を行っているんだと思ってます。それが脳内で映像化することだったり、徹底的にシミュレーションを脳内で繰り返すことだったりするのですよね。

さまざまな事態がイベントでは起こりますが、あらかじめある程度のシミュレーションができていれば、慌てることも徐々になくなります。そして「なんとかなる」パーツと「絶対にはずしてはならないパーツ」が見えてくるようになるのです。なんとかなるパーツにはある程度ののりしろを残し、はずしてはならないパーツをとにかくしっかり埋めていく。これが、ぼくの考える「イベントをつくる」ということの根幹です。

こういう工程を経ているから、きっと、企画書はA4数枚で済むのです。けど、わくわくする企画を数枚に落とし込むと、そこに「イマジネーションの宇宙」が宿ります。テキストの行間から、立体的な映像が浮かんでくるようになります。そうするとA4数枚という制約なんて飛び越えて、読んだ人の中での企画に対するイメージが、いい意味で一人歩きしだすのです。

最初に横山さんの企画書を見たときの、あのどきどきする感じ、高揚感、立ち上るイメージ。それを大事にしながら、企画書に、脳内映像を落とし込む日々です。ここにたどり着くまでは大変なこともありますが、企画書書きは本当に楽しい。たいていニヤニヤしながら書いてるので、周囲の人は企画書書いてる最中は、あまり近寄らないでくださいね。

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企画書を引用した、絶賛前売チャージ券発売中の「Co-Foundersナイト」はこちらになります。ご興味ある方はぜひ遊びにいらしてください。ご飯と2ドリンク付きの価格なので、相当お得ですよ。

cofounders.peatix.com

「もっと動員を集めるありき」のイベントはもうやめよう〜「精度」と「満足度」を考える

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茶ッカソンの様子(伊藤園さん撮影)

あるクライアントさんと商談をしていたときの話です。ぼくは、企業さんや自治体さんと一緒に「アイデアソン」と呼ばれるイベントをやることが多いのです。その代表格が、伊藤園さんとのコラボレーションとして、シリコンバレーで立ち上げた「茶ッカソン」で、今ではサンフランシスコ、シリコンバレー、ニューヨーク、シアトル、東京、京都、横浜、鎌倉などで、のべ700人近くのかたに参加いただいているコミュニティ色の強いアイデアソンシリーズです。

で、この「茶ッカソン」はクライアントさんとお仕事して、クライアントさんの新しい事業の活性や、問題解決のヒントを得るための場にしたり、商材のPRにつなげたりすることが多いのですが、とあるクライアントさんと話をしていたときに、こんな話をされたのです。

「あずさん、今回のアイデアソン(茶ッカソン)、たくさんの方に来ていただきたいんです。100名くらい呼べますか?」
「いや、呼べません。前の打ち合わせでお話したとおり、30〜40名が適正人数、多くても参加キャンセルも見込んで50名でいきましょう」
「告知が難しいのですか?」
「いえ、この企画内容であれば、100名をこえる応募はくると思います。けど、そこから抽選で、多くても50名に減らします」
「なぜですか?100名呼んだほうが、落選して悲しむ人も少ないし、場も盛り上がるのではないでしょうか?」

 
実際、あちこちのハッカソンやアイデアソンでは100名を越す人数で実施する企画もあります。それはそれでいいことなのですが、ぼくは、このクライアントさんの企画においては、大規模でやるのはそぐわないとはっきり思い、こうクライアントさんの担当・Cさんに説明しました。


「Cさん、この企画に大事なのは、「精度」と「満足度」なんです。今後の基礎をつくる初回の大事な企画ですし、まずはそこをつきつめませんか?」

まず企画の趣旨は、そのクライアントさんの商材に、今まであまり関心を抱いていなかった層に、関心を持っていただくことでした。そして、「ああ、この商材●●って面白い!!」と反応していただき、そして、のちにその会社のファンになっていただくことを目的としていました。まず、参加者の方々に、その商材についてしっかりインプットして、商材関係者のみなさんと対話していくプロセスが必要になります。人数が多くなればなるほど、その伝わり方は希薄になりがちですし「当事者意識」が醸成されづらくなります。

参加している方のモチベーションも重要になります。不思議なものですが、大人数になればなるほど、イベントというのは「サボり参加」も容易くなります。たとえば、参加してるふりをして、自分のワークに没頭したり。少人数だと、まわりの視線がより気になるのか、もっとイベントのコンテンツに没入できる環境になるのです。1/30より1/100のほうが、ひとりのもつ重さが希薄になる。冷静に考えればシンプルな話なんですけどね。

ここまでが「精度」の領域です。きちんと、熱狂させて巻き込むべき方々を適切に巻き込むための「精度」です。

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さて、人数が増えると、イベント構成に大きな影響がでます。たとえばグループワーク。適正人数は5〜6人です。これが7人以上になると統率をとるのが大変になってきます。仕事でのチームもそうですよね? 7人をこえると、勝手なことをしだす人というのが、どうしてもでてくるのです(不思議ですねあれ。人間の本能みたいなものがあるんでしょうか)。けど、6人までなら、一体感が生まれやすいんですよね。

さらに、グループ数が増えると、発表の時間がのびることになります。聞きっぱなしの状況に陥ったとき、人間の集中力が続く限界は50分程度です。学校の授業1コマのサイズがそれくらいだったのは、たぶんそのためでしょう。1チームの発表が5分、そのあとの質疑応答に3分とった場合、1時間弱におさめるには、最大のチーム数は7チーム程度ということになります。ときどき10チームくらいでアウトプットのプレゼンやる場合ありますけど、あれは途中で休憩時間いれないと場の緊張感を保つのが難しいです。けど休憩いれると、それはそれで緊張感がそがれる。やはり、チーム数はコントロールしたほうがいいのです。

このあたりは「満足度」の領域になります。主催者のエゴでつめこみすぎると、結果的に参加していただけるみなさんの「満足度」が減ることにつながります。もちろん「精度」が高くなるほど「満足度」もあがりますから、このあたりは相互補完関係にあります。なので、片方をないがしろにするわけにもいきません。

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これはワークショップの事例なので、講演会とかフェス系のイベントには関係ないや、って思う方もいるかもしれませんが、ぼくは根本は一緒だと思ってます。イベントのスタイルによって、適切なサイズってあるのです。その適切サイズをこえると、どこかで無理をきたして、結果、コンテンツと参加者のマッチングの精度が落ちたり(例:ターゲットの外の層がまじってノイズになる)会場運営的に行き届かずクレームに発展したりします。(例:ケータリングの食事が足りなくなった・営業目的の人間が混じってたが目が届かず放置してしまった)

収支的に、人を呼ばないと成り立たない、ということはもちろんあるし、そのバランスを考えるのもプロデューサーの仕事ですが、少なくともさらなる収益が見込める可能性がでてきたときに「追加のチケットをあえて売らない」という選択肢をとることも時に必要だとぼくは思ってます。

けど「人をあえて呼ばない」判断をするときの実はいちばんの理由は、この商談のときにクライアントさんが納得してくれた、この言葉に含まれてたりするんですよね。

「Cさん、100人きたときに、きた全員の顔を覚えて、全員と会話できる自信ありますか?」
「うーん…正直…100人は厳しいですね。」
「じゃあ、40人なら、どうでしょう?学校の1クラスくらいです。」
「ああ、それくらいなら…なんとかがんばれますね!」

 
お客さんひとりひとりの顔をみて、関係性をつくっていくのが、コミュニティ系のイベントにおいて最も大事なポイントです。数百人と人を集めている「コミュニティのイベント」というのも世の中にはなんと存在するのですが、それって主催者も全員の顔なんて把握しきれてないのではないでしょうか。


けどぼくは思うんです。顔の見えない状態のコミュニティは結局、コミュニティではなく「マス(群衆)」と一緒なんですよね。

動員を頑張るな、とは言いません。もちろん、動員はイベントの要です。けど「より多くの動員」ありきのイベント計画をもし書いている方がいたら、いったん、一呼吸おいて、見直してみるのも、いいかもしれません。目的は何か、なぜやるのか、どういう人たちをどういう状態にするのがゴールか。それが見えると、おのずと、どういう環境をつくるのがベストなのかは見えますし、適正な動員サイズも見えてくるものです。KPIは動員数!っていうイベントも多いかもしれないですが、ゴールと目的と照らし合わせて目標値も設定していくのがいいのではないかなと思います。

※実はこのクライアントさんは架空です。複数の商談のエピソードを組み合わせたフィクションです。最後の最後にすみません。つつしんで追記させていただきます。

河原あずのイベントブログ=「イベログ」はじめます。

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河原あずといいます。ニフティが渋谷で運営するイベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー(カルカル)」を拠点にイベント屋をしてます。2008年4月から2012年4月まで年間平均200本近くのイベントのコーディネートをしてました。2011年11月から2012年2月まで会社の研修制度でアメリカ・シリコンバレーに長期出張。そこで「ミートアップ」というアメリカ流のコミュニティ構築の現場を体感してきました。2013年8月から2016年8月までは、現地駐在員としてアメリカ・サンフランシスコに滞在し、数多くの会社とコラボしながら、イベントやミートアップを繰り返してきました。帰国後は同様の活動をカルカルの新しい柱として継続しています。

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このブログは、そんなイベント屋の河原が、イベントや、ミートアップや、コミュニティの運営に関して、日々なんとなく思っていることを、淡々と記録していきます。

だいたい月間3〜5本程度のイベントやミートアップを帰国してからもカルカルの中や外でまわしているわけですが、リアルコミュニティづくりに関しては、自身の活動、カルカルの活性化はもちろんのこと、もっと外部に体系的に発信していかないと、という気持ちが徐々にわいてきました。

サンフランシスコから日本に帰国して、主に都内でいろんな現場見てると、イベントというものやコミュニティに関して、あれ?うーん、ちょっと誤解されているのかな?と思える場面に出会うことがあります。

例をあげると、「動員をどんどんもっと集めよう!目標は動員●百人!」みたいなイベント。はて。動員集めればイベントは成功なのでしょうか?「コミュニティづくりのためにイベントをやりましょう!」うん、確かにそうなんですけど、イベントをやれば必ずコミュニティができるかっていうと、ちょっと違くないかな?「●●ミートアップを●●ホールで開催!!」うーん。イベントとミートアップの違いを意識してこの言葉を使っているのかなあ?などなど。

このあたりをきちんと説明できて実践できるイベントオーガナイザーはもちろんいらっしゃいます。います、が、どれだけの人数いるかっていうと、けっこう身の回り見渡しても希少です。特に「実践」っていうのが難しい。頭でわかっていても、実行にそれをうつすのは、本当に難しいのです。

けど、このような自分の中のベースがきちんとありつつ、イベントづくり、コミュニティづくりが実践できるオーガナイザーが増えていってほしいし、そのためにはぼくなりの考え方をまとめて「ぼくはこう思う」って発信して、いろんな人たちと議論を深めてく必要あるのかなって思い始めて、このブログをはじめようかなと思い至りました。

特にコミュニティづくりの部分は、もっと自身にとっても深めなくちゃならない領域だし、もっと意識的に取り組もうと決意を新たにしとります。また、いろんなかたの解釈が入り混じりすぎて、なかなか真意が伝わりづらい領域でもあり、そのためにもまずは自分の考えの核を表に出していくことを始めようと思います。ぼくは「実践してカタチにしたことを踏まえてしか語れない」人間ですし、それは実践者ゆえの強みでもあります。とりあえず、細々と更新していこうと思ってますので、お時間あるときに、なんとなく読んでやってください。こういう話聞きたいってリクエストあれば、反映するかもしれないし、しないかもしれません。まあ、新年って、こういうの立ち上げるにはちょうどいいタイミングですしね。

よろしくお願いいたします。

あ、超余談ですが、いろいろ迷って結局はてなであけることにしました。自社ニフティのサービスの「ココログ」や、mediumやnoteなどにしようかとも迷ったのですが、コミュニティ活動してる方の人口考えるとやっぱりはてななのかなっていうのと、はじめてブログやったのがはてなダイアリーなので、初心に帰るという意味で、はてなブログを開けることにしました。ココログもいいブログなので、ぜひともみなさん使ってやってくださいね(PR)。